税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
最近、顧問先様やお知り合いの税理士先生から、土地建物を一括で売却した場合の内訳金額の計算方法について続けてご質問をいただきましたので、ここで整理しておきたいと思います。
会社や個人で保有されている貸ビル(土地と建物が一緒になっているもの)を売却する場合は、以下の理由により、売却代金を土地分と建物分に分ける必要があります。
(平成28年8月7日:追記)
土地建物の比率が適正でない場合の問題点
消費税の問題
土地について消費税はかかりませんが(非課税取引)、建物については消費税がかかります(課税取引)。そのため、問題となるのは建物の代金をいくらにするかです。
売主側は消費税を預かる(後日、税務署に払う)ため建物の比率を下げたい、買主側は消費税を支払う(後日、消費税を控除できる)ので建物に比率を上げたい、といったように建物代金の金額が問題となることが多いです(売主側が消費税の免税事業者であれば問題になることは少ないのですが)。
また、土地は非課税売上になり消費税は課税されないのですが、売主側では税務署に「課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を税務署に出す場合があります。なぜなら、課税売上割合が下がってしまい、一時的に消費税の納税額が大きくなってしまうからです。
そのために課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書を提出するのですが、その際は、売却時期にも注意を払う必要があります(売却した課税期間に税務署長に承認してもらう必要があり、課税期間ギリギリに売却してから提出すると間に合わない可能性があります)
減価償却費の問題
買主側は建物を中古資産として減価償却することになりますが、建物の金額が適正でないとされた場合は減価償却費も適正でないとされ問題になることがあります。
売却金額の問題
第三者間の売買であればほぼ問題はおきないと思われますが、同族関係者同士の取引(親と子、同族会社と個人といった同族関係者同士の取引)であれば、みなし譲渡や寄附金課税といった問題が発生します。
借地権課税の問題
同族関係者間の売買であれば、その土地に税務上の借地権があるのかないのかを見極めて売買代金を設定することも大切です。仮に税務上の借地権があるとされた場合は、売却代金のうち土地分は、底地分と借地権分とに分けて収入を按分しなければならなくなります。
もちろん、上記以外にも問題点はありますが、主要な論点だけ洗い出してみました。
土地と建物を分ける際の金額の算定方法
売却収入のうち、土地分と建物分とを分ける計算方法は、下記のような方法のうちから最も適正だと思われる方法により計算する必要があります。
そして、計算した金額については、契約書において、「土地***円」「建物***円」「消費税**円」と、きちんと分けて記載する必要があります。
(税法だけではなく、宅建業法でも消費税の金額を適正に記載するよう求められています)
代表的な計算方法をご紹介すると、次のようになります。
建物(または土地)の時価を優先的に計算する方法
最初に建物(または土地)の適正な時価を求めて、売買価格から建物(または土地)金額を控除して土地(または建物)価額を求める方法です。
この方法は、土地または建物いずれか一方の金額を優先的に計算するため、比較的簡単ではありますが、適正価額と売買価格との間に大きな開きがある場合、合理的な方法とは言えまないかもしれません。
それぞれの時価により按分する方法
この方法は、土地と建物それぞれの時価を計算し、売却代金をその比率により按分して計算するため、一定の合理性があると考えられます。ですが、土地と建物の時価をどのように計算するか問題が残ります。
固定資産税評価額の比率により按分する方法
土地の固定資産税評価額と、建物の固定資産税評価額との比率により按分して計算する方法です。不服審判所の採決等で正当とされた事例はあり、ある程度の妥当な方法ではあると思いますが、以下の問題が残されております。
- (一般的に)当初の建物固定資産税評価額は建築価額×3割~6割程度とされていること
- 当初の建物固定資産税評価額の計算根拠があいまいなこと(評点方式による計算)
- 年数に比例して評価額が下がらない(物価上昇時は評価額が下がらないことがある)
不動産鑑定士による鑑定評価額を採用する方法
不動産鑑定士(不動産の時価を計算するプロ)に依頼し鑑定評価額を算出してもらう方法です。この方法は一定の合理性がありますが、費用的な問題が残ります(不動産鑑定士に最低でも数十万程度の報酬支払いが必要です)
上記以外にも、新築建物の特例(新築原価に142%を乗じて建物価額を計算する方法等がありますが、一般的な方法としては、これらになるのではないでしょうか。
転売した場合は売却時(または購入時)の消費税を参考にする
不動産業者様の場合ですが、マンション(または土地付き建物)を仕入れて、すぐに(例えば1ヶ月~半年以内くらいに)転売することもあるでしょう。
その場合は、売却時または購入時のどちらの契約書に消費税の記載がないか、確認してみてください。
よくあるケースとしては、仕入時の契約書には消費税の記載がない。だけども、売却時の契約書には消費税の記載があるといった場合です。
このような売買の場合、売却時の契約書の土地建物の割合は分かります。
(売却時の契約書に消費税の金額が書いてありますから、そこから計算できます)
ですので、この土地建物の割合を、そのまま仕入時の金額にも適用できるかもしれません。
というのも、仕入と売上の期間が比較的近い場合、土地建物の比率は、売上時と仕入時とで、大きく変更はないと考えられるからです。
ただし、他人同士の売買であること(身内同士の売買では割合を調整できてしまうため)、比較的短期間に売買していることといった、いくつかの条件を満たす必要があると思われます。
※ この方法は、あくまで個人的な考えのため、使う際は際はご注意くださいね。
実際の計算方法
実務上は、上記方法のうちから、時間的制約、金額の多寡、費用面等を総合的に考えて計算することになります。
最近頂いたご質問のケースでは第三者間の売買でしたので、いずれの方法であっても、極端な金額にならない限り、税務上の問題は少ないと思われました。そのため、後は、上記方法を駆使した、買主側と売主側との建物金額の綱引きになるでしょう(買主側は建物金額を大きくしたい、売主側は低くしたい。よって、両者の按分方法の主張が違いました)
一概には言えませんが、実務上は時間的制約や費用的な面から、「それぞれの時価により按分する方法」を用いることが多いかな、と個人的には思っております。
この方法は次のように計算することとなります
(あくまで一般例です。個別事情を加味して適宜変更して計算することになります)
土地の時価を求める
土地の時価は、近隣の売買価格を参考にする方法、鑑定評価額による方法、その他いくつかの方法が考えられます。今回は時間と費用を考えて、売却物件に最も近い公示地価とその路線価との比率により計算します。
500,000円(売却物件の前面路線価)×1,000,000円(公示地価)
/800,000円(公示地の前面路線価)×200㎡(土地の面積)
=125,000,000円(土地の時価)(時点修正・画地補正等は考慮していません)
建物の時価を求める
建物の時価は、鑑定評価額による方法も考えられますが、今回は複成価格法により計算します。複成価格法とは、建物の標準的な建築価額表(国土交通省がまとめ国税庁が発表している建物の1㎡あたりの建築価額表)から建物の再取得価額を計算し、そこから減価償却費を控除するという方法です。
102,000円(昭和52年時点での鉄筋コンクリート建物建築価額の全国平均)
×500㎡(建物の床面積)=51,000,000円(再取得価額)
51,000,000円×0.174(旧定率法未償却残額表:耐用年数50年中38年経過0.174)
=8,874,000円(建物の時価)
(詳細に計算するのであれば、全国平均ではなく、その地域の建築価額表を用いるべきと思われます)
土地建物の時価合計
125,000,000円(土地の時価)+8,874,000円(建物の時価)
=133,874,000円(土地建物の時価合計)
土地建物の内訳金額(按分計算)について
1.土地の金額
150,000,000円(売買金額)×125,000,000円(土地の時価)/133,874,000円
(土地建物の時価合計)=140,057,068円(売却代金のうちの土地の金額)
2.建物の金額
150,000,000円(売買金額)×8,874,000円(建物の時価)/133,874,000円
(土地建物の時価合計)=9,942,932円(売却代金のうちの建物の金額:税込)
まとめ
土地建物の按分計算については色々な考え方がありますが、費用や時間も考え、実務上、最も合理的であると考えられる方法により、計算することになります。
また、売買金額が大きくなれば消費税も大きくなります。買主様も売主様も上記の考え方を踏まえて、ご自分にとって一番有利になるよう、金額交渉をしてください。第三者間の売買であり、上記の考え方を踏まえて計算しているのであれば、税務署から否認されるようなことは少ないかと思います。
最後に、繰り返しになりますが、売主様の方では「課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出した方が良いのか、提出するならば提出時期にもご注意ください。
つぎの記事が参考になります。
「不動産を売却(譲渡)した際は消費税に注意しましょう(課税売上割合に準ずる割合の使い方について)」
また、不動産の売買契約書が、税金と、どのように関係するかお知りになりたい方は、次の記事が参考になります。
「不動産の売買契約書で、税理士がチェックすべきポイントとは?」
売主様・買主様の両者にとって、より良いお話し合いになるようお祈り申し上げます。
※本記事に関する無料相談はお受けしておりません。あらかじめご了承ください。