税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
私が今の場所(中央区日本橋茅場町)で開業してから数年がたちましたが、その間に、このお仕事(税理士業)に対する考え方も変わりました。
人に個性があるように、税理士にも個性があります。ですので、そのため税理士によって、仕事に対する考え方やポリシーも違います。
ですが、税理士という仕事で、「これだけは必ず必要」というものもありますので、その部分について考えてみたいと思います。
その1.「スピード感」
「仕事はスピードが大切である」と皆さんおっしゃいます。税理士業でのスピードと言えば、次の2つになるかと思います。
- 質問に対する返事のスピード
- 仕事自体のスピード
質問に対する返事のスピード
(1)簡単な内容には直ぐに返答すべき
質問といっても、色々とあるでしょう。
「いつ会いますか?」といったスケジュールに対する質問もあるでしょうし、「消費税の複雑な取り扱いを教えて欲しい」といった難しい質問もあります。
スケジュール調整や簡単な質問といったように、すぐにお答えができる質問については、直ぐに返事をしなければなりません。
メールであれば、できれば数時間以内、遅くとも24時間以内に返信すべきでしょう。
独立してから、色々な士業の先生(弁護士・司法書士・社会保険労務士・行政書士)とお会いし、また、一緒にお仕事もしてきました。
その中で感じたのは、「メールやお電話をしても直ぐにお返事を頂けない先生が意外と多い」という事実でした。
これら専門家のお仕事は、返事の早さが一番大切です。
お客様は返事がない間は不安になりますし、紹介した私の方も自分の評判に響きますので不安になってしまいます。
これは、年齢は関係ないと思います。どの年代の士業の先生でも一定割合いらっしゃると思います。
ですから、私は、メールやお電話を頂いたら、できるだけ早めにお返事をするように心がけています。(私宛のメールは携帯に転送し、メール着信が直ぐにわかるようにしています)
ある弁護士先生のお話ですが、「理想はメールをもらってから10分以内の返信だね」とのことでした。
事務所にいる場合は、10分以内の返信ができますが、外出していれば、やはり少しお時間を頂いてしまいます。
ですが、重要な案件については、遅くとも24時間以内にお答えができるよう心がけています。
(2)難しい内容にも数日中にお答えすべき
難しい質問は、調べるのにお時間がかかります。
難しさにもよりますが、とても専門的なことについては、国会図書館なり税理士専用図書館に行って調べますから、1週間~2週間程度かかってしまうこともあります。
ですが、このようなときでも、
「現在、調査中ですので、あと1週間程度お待ちください」
というご返答を早めにすべきです。
また、弊事務所には、顧問先様からだけでなく、同業者(知人友人の税理士)からも、ご質問を頂く機会が多いです。
特に税理士からのご質問は、専門的で難しいものが多いのですが、弊事務所が独自に構築した資料(スキャンした書籍や有料データーベース)を使って、できるだけ早くご回答できるように努めております。
ちなみに、ここ1週間で、顧問先様と同業者(友人知人の税理士)から頂いたご質問を挙げてみます。
- 従業員に賞与を出したいが社会保険料を削減するためにはどうすれば?
→賞与の時給時期をバラす。又は賞与でない形で支給する。 - 相続税の不整形地の取り方
→著しく不合理でない方法で。私道は単体で3割評価してOK。
→近似整形地も考慮。
→不整形地を取るソフトとしてターボスケッチを推奨 - 海外親会社の国内子会社への情報提供は消費税が課税か免税か?
→親会社と直接契約書を結んで役務を完全に親会社に提供すれば輸出免税でOK - 銀行の資金回収部門から返済を求められている手形貸付の更新のための理由
→資金繰りのため(守秘義務のため書けません) - 個人で賃貸アパートを建てるが個人所有と法人所有のどちらが有利か?
→資金的に大口でなければ原則として個人所有で。 - 賃貸アパートから家賃滞納者追い出しのための弁護士費用の経費性
→もちろん経費にしてOK - 法人での社会保険の加入義務
→法人の代表者であれば、原則として必ず加入する。他の給与収入があれば両方届必要
難しいご質問でも、できるだけ短時間でお答えをする。これもサービスの1つだと思います。
(問題が起きる前に対策する方が、一番コストが安くて済みますので)
仕事自体のスピード
税理士の仕事は大きく分けて、「記帳代行」と「税務申告」があります。
10年くらい前までは、記帳代行がとても価値あるものでした。といいますのも、パソコンや会計ソフトの性能が良くなかったからなんですね。
また、税務申告も、30年ほど前までは手書きでやっていたものが、これまたパソコンで出来るようになりました。
ですから、難しいお仕事でなければ(普通の会社の決算等であれば)、以前よりも作業時間は短縮されているのです。
ですが、いまだにギリギリになって税務申告書を作り、期限直前になって顧問先様にハンコをもらう。そのような税理士先生も多いと思います。
お仕事は期限に余裕を持ってすること。それが顧問先様の安心感にもつながります。
その2.「調整力」
税理士というのは不思議なお仕事で、お客様(顧問先様)を含めた「全ての方の中心になって動く」ことが多々あります。
私自身、調整力が必要と思い知らされた出来事があります。
それは、物納の案件のときでした。
物納とは、簡単にいいますと「相続税を不動産で納める」ことです。
中央区や千代田区といった、地価が高いところでは、あまり関係がないかもしれません。これらの地域は売ろうと思えば直ぐにうれしていまいますから。
物納する。言うのは簡単なんですが、とても大変です。
なぜ大変か?
それは「多くの関係者と調整しなければならない」からなんですね。
物納の関係者が何人になるのか数えてみましょうか。
- 顧問先様
(実際に納税される方) - 地元の不動産業者様
(近隣の不動産を事情をご存じ) - 土地家屋調査士の先生
(測量、隣地確認、境界杭確認) - 銀行担当者
(土地が抵当に入っているなら外す必要あり) - 国税局や税務署
(書類を審査) - 財務局
(不動産の現地調査をして問題を指摘) - 借地人様
(貸している土地を物納する場合、借りている方のハンコが必要) - 隣地の方
(物納する不動産のお隣の方のハンコも必要)
1つの関係先に複数の方がいらっしゃいますから、これらを合計すると、関係者が十数名になりました。
これらの方すべてに電話で連絡をとり、ご説明と日程調整、さらには書類にハンコを頂く。気の遠くなる作業です。
皆さん、立場が違いますので、おっしゃることも違います。
「担保は外せない」「ハンコを押すにもきちんと説明してくれ」「この書類の意味は?」といった風にです。
また、税金以外の知識も必要になります。
- 測量図の見方
(法務局の測量図と現況杭が違っていないか) - 土地家屋調査士と法務局との関係
(額縁分筆の可否) - 銀行抵当の知識
(借地家と抵当権との先後の問題) - 財務局の判断が妥当か
(容積率・接道義務・違法建築等でないか等)
全ての関係者と密に連絡をとり、税金以外の法律も調べ、ゴール(物納の成功)に向かって走り続ける・・・。
何度も何度も関係者の方にご説明をし、何とか何とかご納得頂き、結果的に物納は成功しました。
このように、税理士が関係者の間に立って調整すべき場面は多くあると思います。
会社の銀行融資もそうですし、相続の問題でもそうなるかもしれません。
一番難しい税金という問題を切り口に、税理士が中心になって解決する。税理士には高い調整力が必要だと実感しました。
その3.「誠実さ」
日本の税金は、とても難しいので、一般の方には、なかなか分かりずらい部分があります。
ですから、計算間違いといったミスがあっても、顧問先様には分からないことが多いので、そのことをきちんと報告しない税理士も多いと思います。
ですが、そのような間違いを発見した場合は、税理士の方から、顧問先様にきちんとそのことを報告しなければなりません。
きとんと報告しないでそのままにしておきますと被害が拡大するかもしれませんし、何より顧問先様のご信頼に応えることができないということになります。
だまっていれば分からないかもしれません。ですが、自分の非もきちんとご報告する。これが税理士や弁護士といった専門家に求められる姿勢だと思います。
ちなみにですが・・・。私は幸い、大きなミスもなく、現在までお仕事を続けられました(お名前間違いといった細かなミスはしたことはございますが・・・)
ミスを発見したら、きちんとご報告する。難しい仕事をしているからこそ、顧問先様への誠実さが問われるんだと思います。
思いつくままに書いてみましたが、これらは普通のビジネスマンであれば、ごく当たり前のことではあります。
ですが、税理士という職業は、他の職業と比べて比較されにくいということがあり(何人もの税理士に依頼された方は少ない)、この辺りを実践されていない税理士先生も多いと思います。
ですので、自分自身への戒めのため、また確認のためにもご説明してみました。
顧問税理士にお願いされている方だけでなく、普段、税理士先生にご縁のないかたでも、その税理士先生が大切にされているポリシーなり考え方をお聞きしてみると面白いかもしれませんね。