税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
数年前のお話です。
ある社長様が弊事務所に、税理士を探されているとのことで、ご相談にいらっしゃいました。
この社長様、数年前に不動産仲介業を立ち上げられ、社員は現在4人~5人程度とのこと。
今までは、会計帳簿の記帳は知り合いの行政書士に、税務申告は自社で行ってきたとのことでした。
営業成績が順調に上がり、自社での税務申告が負担になってきたということで、ご相談にいらっしゃいました。
社長様からの頂いたお言葉
社長様から色々とお話をお聞きました。
そうしたところ、どうやらこの会社、事業に関することは社員に一切相談せず、全て社長様がワンマンで決定されているようでした。
色々なご質問を頂き、ひとつひとつお答えしていきました。
そして、最後に「石橋さんは、我々のために何をしてくれますか?」とのご質問を頂きました。
私は、「もし、私が御社をお手伝いすることになりましたら、御社のことを一生懸命に考えます。また、御社にご訪問して、真剣に社長様のご相談に乗ります」とお答えしました。
そうしますと、社長様が、「それでは答えになってないよ」、とおっしゃられ、お帰りになられました。
「何か失礼なことをお伝えしたのかな?」「ご質問にきちんと答えることができなかったのかな?」
そのときは色々と考えましたが、どうやらそうではなかったのかもしれません。
そして、もしかしたら、その社長様がお求めのものが、私になかったからかもしれません。
では、税理士には、何が必要なのでしょうか?
税理士に求められるものとは?
皆様が税理士に何をお求めになるのか。
会社の状況や、社長様のお考えによって様々ですが、一般的には次の3つが必要だと言われています。
(1)幅広い知識
知識と一口に言いましても、色々な知識があります。
例えばですが・・・
- 税金の知識
- 労務や社会保険の知識
- 法律の知識
- 経営の知識
「税務の知識」
税理士ですから、税金の知識は必ず必要です(これがなければ仕事ができません)。
特に、最近は、毎年のように大きな税制改正がありますので、勉強が欠かせません。
「労務や社会保険の知識」
従業員さんを雇っている会社様は、労務の知識が必要です。
退職に伴う未払残業代の請求、突然の労災事故、違法な残業労働、社会保険への加入要件の確認、といったことについて、役所が目を光らせています。
私へも、そのようなご質問を多く頂きます。
もちろん、一般的なお答えできるよう勉強しておりますが、難しいご質問は、やはり専門家である社会保険労務士をご紹介するようにしています。
「法律の知識」
会社を経営しておりますと、取引先と色々なトラブルも起きます。
「売上先から長期の未回収金がある」「仕入先への代金が払えない」「会社が危ないが自宅を妻に贈与してはダメか」
これらは法律の知識が必要ですから、本来は税理士の仕事ではないのですが、簡単なご質問であれば、一般論ですがお答えはできます。そうすれば、社長様もお喜びになるのではないでしょうか。
(もちろん、弁護士先生の業務に影響のない範囲でのお答えになりますが)
「経営の知識」
最近のビジネス書ブームのあおりで、色々な経営戦略の本(例えばランチェスター戦略やブルーオーシャン戦略等)といった本が出版されております。
一般的なビジネス書は、税理士も読んでおく必要があるでしょう。
また、顧問先様の業界についても、最低限の勉強(業界の慣習について勉強しておくこと等)は必要になるかと思います。
このほかにも、不動産業であれば土地建物の基礎知識、相続税であれば都市計画法や建築基準法、といったように、顧問先様が増えれば増えるほど、必要な知識が増えていきます。
(2)コミュニケーション能力
税理士には、コミュニケーション能力が必要です。
特に、社長様とのコミュニケーションが最重要といえるかと思います。
中小企業の社長様は、常に何かをお悩みなのです。
「従業員の給料を下げても良いものか?」「給料を下げると従業員が辞めてしまうだろうか?」「売上が順調に上がってきたが、どのタイミングで支店を出店すべきか?」といったように、悩みは尽きません。
これらお悩みの答えは、多くの場合、現場にあります。その現場を一番ご存じなのは、社長様ご自身なのです。
ですから、色々な経営戦略の本に惑わされず、まずは社長様から膝詰めで色々とお聞きした上で、税理士が交通整理をし、その結果を社長様にお示しするのです。そうすることにより、社長様も考え方がまとまり、次のステップに進めることでしょう。
また、融資の場合は銀行担当者、税務調査の場合は税務署員といったように、税理士は色々な場面で相手方とやり取りしなければなりません。
これからの税理士には、コミュニケーション能力が必須といえるでしょう。
(3)誠実さ
税理士は社長様から、「お金のこと」や「ご家族のこと」といった、デリケートなお悩みを受けることがあります。
税理士には会社の資産状況が分かりますし、場合によっては、社長様個人の資産状況も分かってしまうかもしれません。
また、社長様から「息子が事業を継いでくれない」「娘の結婚相手のこと」「将来の老人ホームへの入居」といったようなご質問も頂く事が多いです。
これらの、いわば顧問契約以外のご質問は、税理士によっては敬遠してしまう方もいると思います。ですが、社長様が困っているのであれば、会社のことではなくとも、ご相談に乗って差し上げるのが税理士の使命かと思います。
これらを実行するためにも、税理士には誠実さが必要です。
これ以外にも、税理士に必要なものはあると思います。
ですが、私自信の感想ですが、これら全てを備えている税理士は、とても少ないと感じています。
幅広い知識を備えるにも、まず、毎年の税制改正があります。
これを追いかけるだけでも、1年間のうち、何週間かがつぶれてしまいます。
そしてコミュニケーション能力です。
勉強好きな税理士ほど、本と向かい合うわけですから、コミュニケーションがとりずらくなってしまうと思います。
最後に誠実さです。
税理士という職業は、他人と比較されることが少ない職業です。
そのため、手を抜こうと思えば、いくらでも手を抜くことができます。
ですから、これら3つの条件が揃った税理士が見つかったのであれば、それはとても貴重ですので、大切にしてあげてください。税理士は単純ですから、褒められれば褒められるほど、御社と社長様のために頑張ることでしょう(笑)。
それでも「御社と社長様のことを一生懸命に考えます」とお答えします
日夜勉強し、顧問先様に関係する知識を集め、社長様から呼ばれれば直ぐに駆けつける・・・。
私自身、そんな税理士を目指すべく頑張ってきましたが、そのような税理士を必要とされていない社長様もいらっしゃいます。
数年前を振り返りますと、その社長様は、「自分が全てを決めるから、相談なんて必要ない」、とお思いだったのかもしれません。
ですが、それは、もったいないと思います。
税理士事務所には、色々な業種の色々な事例が蓄積されています。
「仕入先とのトラブルをこうやって解決した」「従業員とのトラブル対処法」「社用車が事故にあったが先方がお金がない場合の着地点の見つけ方」、といったようにです。
そのため、信頼できる税理士が見つかったのであれば、どんどん相談してみるべきなのです。
もしかしたら、意外な解決法を知っているかもしれませんので。
私自身、その社長様がご相談に見えたとき(数年前)よりも、知識や経験は増えましたが、基本姿勢に変わりはありません。
ですから、その社長様が再度ご相談にいらしたら、自信を持って、「御社と社長様のことを一生懸命に考えます」、と同じお答えをするでしょう。
何かお悩みの顧問先様は、どんどん税理士にご相談頂ければと思います。それが御社と社長様の益々のご発展につながるのですから。