譲渡費用を計算する際の注意点とは?

質問

私は、昨年、自宅を売却しました。

そのため、確定申告書を自分で書いておりますが、下記の部分(譲渡費用)について、分からない点があります。

譲渡費用.PNG

売却の際、下記の費用を払いましたが、これらは譲渡費用になるのでしょうか?

  • 不動産業者への仲介手数料
  • 新しい自宅への引越費用

また、どこまでが譲渡費用になるのか、基本的な考え方を教えて頂けますか

回答

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

不動産の売却益は、税金の計算上、「譲渡所得」と呼ばれます。
そして、この売却益に、約2割~約4割の税金がかかります。

 不動産を売却した際の税金について、概要をお知りになりたい方は、個人が不動産を売却した際は、どのような税金がかかりますか?をご覧ください。

この売却益を計算する際、その売却益(譲渡所得)から、取得費(購入代金)と譲渡費用を差し引くことになります。
ですので、譲渡費用を正しく計算する必要があります。

ご質問への答えですが、つぎのとおりになります。

  • 不動産業者への仲介手数料
    ・・・譲渡費用になる
  • 新しい自宅への引越費用
    ・・・譲渡費用にならない

この譲渡費用ですが、詳しく書いてある書籍も少なく、また、範囲も曖昧な部分があります。
そこで、今回は、不動産を売却した際の譲渡費用について、ご説明していきたいと思います。

 ここでのご説明は、平成28年時点での法律を前提としています。不動産を売却した際の税金は、頻繁に改正されますので、必ず事前に税理士等の専門家にご相談ください。

税理士による実務アドバイス

譲渡費用の基本的な考え方について

譲渡費用の範囲ですが、法律(所得税法33条)と通達(所得税法基本通達33-7、33-8)に、その範囲が書かれています。

具体的に書かれている、所得税法基本通達33-7を確認してみましょう。

(譲渡費用の範囲)

法第33条第3項に規定する「資産の譲渡に要した費用」(以下33-11までにおいて「譲渡費用」という。)とは、資産の譲渡に係る次に掲げる費用(取得費とされるものを除く。)をいう。

  1. (1)資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用

  2. (2) (1)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。以下33-8までにおいて同じ。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用

(注)譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。

この黄色の部分にご注目ください。

1.(1)の最後の方で、「直接」要した費用として、わざわざ「直接」と言っています。
その「直接」の例が、冒頭に出てくる仲介手数料や登記費用なんですね。

つぎに、2.(2)を確認してみましょう。
ここでは、「譲渡価額を増加させるため」と書いてあります。
その例が、立退料や建物取り壊し費用なんですね。

そして最後に、わざわざ、「維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれない」と言っています。
これらは、上記2つのいずれの考え方にも該当しないので、当然と言えます。

通達では、ここまでしか説明していません。
ですが、実際の売買では色々な経費、費用が発生し、判断に迷うこともあるかと思います。

 

譲渡費用の一覧表

そこで、不動産売買で良く出てくる費用について、私の実務経験を踏まえて、一覧表にしてみました。
ご参考になれば幸いです。

番号 譲渡費用の種類 該当 説明
1. 仲介手数料 不動産業者へ支払う
仲介手数料
2. 運搬費 曳屋(ひきや)の費用
(引越費用は×)
3. 登記・登録に
要する費用
売渡証書の作成費用
(現在は殆どない)
4. 登記費用
(抵当権抹消)
× 銀行等への抵当権
抹消は費用にならない
5. 登記費用
(相続登記)
× 取得費または
必要経費になる
6. 収入印紙 契約書に貼る印紙代
7. 測量費用
(×)
売買に直接関係
する場合のみ
8. 立退料
(×)
身内等への支払いは
ダメな場合あり
9. 建物の
取壊費用
(取壊損失)

(×)
取壊直後に
売却する場合のみ
10. 契約の違約金 売主変更に伴う
旧売主に払う分
11. 修繕費 × 建物の維持修繕費
12. 固定資産税 × 土地・建物の維持に
係る固定資産税
13. 税理士費用 × 税理士への
確定申告費用

 「○・・・譲渡費用になる」「×・・・譲渡費用にならない」

1.仲介手数料

不動産売買をする際は、普通は不動産業者に仲介をお願いするでしょう。

 不動産業者のお仕事は、単に買主を見つけるだけでなく、相手との価格交渉、抵当権を消すための銀行との打ち合わせ等、多岐にわたります。ですので、普通はプロである不動産業者にお任せした方が安心と言えます。

その不動産業者への仲介手数料ですが、普通は、決済(売買の最終代金を受け取ること)が終わった直後に、仲介手数料をお支払いすることになります。
これは問題なく、譲渡費用になります。

なお、仲介手数料の上限額は、宅建業法(不動産業者をしばる法律)で決まっており、

「売買金額×3%+6万円」(消費税別途)

になります。

この金額は「上限」なんですが、事実上、「定価」になってしまっており、普通はこの金額(または、これに近い金額)で、仲介手数料が決まることが多いです。

ですが、契約から決済まで、スムースに終わりそうでしたら、不動産業者との契約前に、
「仲介手数料を少し値引きしてもらえませんか?」
と、お願いするのもアリですね。

 私のお客様も、そのように上手に交渉していらっしゃる方がいらっしゃいます。

2.運搬費

ここでの運搬費とは、荷物を運ぶ「運搬」ではありません。
要は、「曳屋(ひきや」の費用です。

例えば、広い土地の上の真ん中に、ぽつんと自宅が建っている。
その土地の半分を売ることになり、家を端っこに移動させることになった。
このような費用のことを指しています。

ですので、引越費用やゴミ捨て費用は運搬費に含まれませんので、ダメなんですね。

3.登記・登録に要する費用

不動産売買があった場合、以前は、「売渡証書(うりわたししょうしょ)」という書類を作成していました。
その書類の作成費用は司法書士先生に払うのですが、その費用を売主が負担していたならば、これは譲渡費用になります。

 通達にある「登記若しくは登録に要する費用」は、これをさしています。

ですので、つぎにご説明している抵当権抹消費用は、譲渡費用にすることができません。
(登記若しくは登録に要する費用ではありませんので)

4.登記費用(抵当権抹消)

不動産の登記簿謄本には、「甲区(こうく)」と「乙区(おつく)」という欄があります。

甲区には「誰が所有者なのか?」という情報が、乙区には「所有者以外の情報」が記載されています。

この乙区の「所有者以外の情報」ですが、主に、
「この不動産を担保にして誰がお金を借りているか?」
という情報が記載されます。

不動産を売却する際に、まだ借入が残っている場合は、銀行に事前に打ち合わせします。
「不動産の売却代金で借金を返すので、この部分を削除してください」
というお願いを、銀行に事前にしておくのです。

そうすると、銀行は、売買代金が振り込まれたら、すぐに預金から借金返済分を振替(引き落とし)します。
そして、借金完済の証明書?を司法書士先生に渡して、登記簿謄本の乙区の部分を削除するのです。

 この部分を削除して、初めて、不動産がキレイな状態になるんですね。

この乙区にある、借入の情報を削除する費用を「抵当権抹消費用」と読んでいます。
費用の内訳は、
「司法書士先生への報酬+印紙代」
となり、普通は合計でも数万円に収まります。

この費用は、譲渡費用になりません。
「え!売買に直接必要な費用だよ!なんで譲渡費用にならないの?」
とのご意見もあるかもしれません。

ですが、過去の裁判例で、「直接必要な費用ではない」ではなく、「登記若しくは登録に要する費用」でもないと判断されて、譲渡費用にならないとされたんですね。

また、これと同じ考え方で、登記簿の甲区の所有者欄の住所変更を行う場合があります。
この住所変更に係る費用も、譲渡費用になりません。
お気をつけください。

5.登記費用(相続登記)

不動産を相続した方は、司法書士先生に名義変更をお願いして、
「司法書士費用+登録免許税」
をお支払いになったと思います。

この場合は、それぞれ次のように分けて考えます。

  • 事業用(不動産賃貸業・商売)の場合
    ・・・必要経費
  • 非事業用(自宅等)
    ・・・取得費

事業用に使っていた不動産を相続した。
その場合には、その事業の必要経費になります。

また、自宅のように事業用に使っていない不動産の場合は、その不動産の取得費になります。

 平成17年に有名な最高裁判決が出て、このような取扱いになりました。

6.収入印紙

売買契約書に貼る収入印紙のことです。

普通は、売買契約書を2通(売主分・買主分)作成します。
そして、収入印紙も、売主、買主それぞれが負担します。

売買金額にもよりますが、普通は数千円~数万円になります。
これらの収入印紙は、譲渡費用になります。

7.測量費用

測量費用には、少し問題があります。

不動産を売却するために測量した。
そして、その後すぐに不動産を売却した。
これであれば、問題なく譲渡費用になります。
例えば、買主からの要請で土地を測量した。そして、その後すぐに売却した。
これは譲渡費用で問題ありません。

ですが、将来売るかもしれないから、早めに測量しておこうというのは、ダメなんですね。
(譲渡費用になりません)

最初に通達を使って、「直接」要した費用というご説明をしました。
測量して時間が空くと、その土地を売却するために「直接」要した費用にはならない。
そう思いませんか?

ですので、測量してからすぐに売る場合は譲渡費用になる。
すぐに売らない場合は譲渡費用にならない、という取扱いになります。

ところで、不動産賃貸業をしている方は、譲渡費用にはならないが、必要経費になるかもしれません。
というのも、測量の理由が、
「貸している土地の地代交渉のため正確な面積を測った」
ということであれば、不動産事業に必要な経費ということで、不動産所得の必要経費に該当します。

 土地を多くお持ちの地主様は、毎年のように測量されます。その場合、測量費用も毎年数十万円~数百万円になったりしますので、きちんと判断しましょう。

その測量の目的を考えて、きちんと資料を残しておくことが大切ですね。

8.立退料

所有している賃貸アパートを売却したい。
でも、昔からの入居者が出ていってくれない・・・。

そのような入居者に支払った「立退料(たちのきりょう)」も、譲渡費用になります。
というのも、立ち退かせると、(理論上は)不動産の売却価額が上がるからなんですね。

ですが、これは、きちんと家賃をもらっている入居者へ支払った場合です。
家族にタダで貸している場合の立退料は、譲渡費用にならないとの裁判例があります。
ですので、立退料があった場合は、誰に対して支払った分なのか、きちんと判断しましょう。

9.建物の取壊費用(取壊損失)

建物の取壊費用は、さきほどの「7.測量費用」と同じ考え方で、取壊後にすぐに売却したか、しないかで分かれます。

昔からの地主様でよくあるのが、一軒家を貸していて、これを売却するために取り壊して、すぐに売却した。
この取壊費用(解体業者への費用・未償却残高)は、譲渡費用になります。
というのも、通達にもあるとおり、取り壊してから売れば、(理論的には)譲渡価額が上がるからなんですね。

これに対して、取り壊して数年間が経過している場合は、譲渡費用になりません。
ですが、不動産所得があり(不動産賃貸業をしており)、貸家を取り壊して新たな用途に使う場合等は、取壊費用と建物の未償却残高は必要経費になる可能性があります。

10.契約の違約金

個人の方が不動産を売却する際は、あまりないのでしょうが、「違約金」を支払う事があります。

買主に売り渡す契約をしたが、より高く買うという、新たな買主が見つかった場合などです。

この場合、売主は、既にもらっている手付金を返すだけでなく、さらに手付金と同額の違約金を支払うことがあります。
(「手付け倍返し」と呼ばれるものです)

例えば、1億円の不動産の売買契約をして、1千万円の手付金をもらったとしましょう。
そして、新たな買主が見つかったので、手付金1千万と違約金1千万円の合計2千万円を、最初の買主に返金したとします。

この場合は、違約金分の1千万円が譲渡費用になります。

 手付金1千万円は、単に預かったお金を返しただけなので、譲渡費用にはなりません。

ただし、単に解約しただけの場合(新たな買主にすぐに売らない場合)は、譲渡費用にはなりませんので、ご注意ください。

11.修繕費

建物の修繕費は、譲渡費用になりません。

というのも、通達の最後の部分にあるとおり、修繕費は「維持又は管理に要した費用」になるからなんですね。
考えてみれば、当たり前のような気がしますね。

不動産賃貸業をしている方であれば、貸家の修繕費は必要経費になります。
対して、自宅の修繕費は家事費(単なる生活費)なので、そもそも経費という考え方にはなりません。

ですので、修繕費は譲渡費用にならないという結論になります。

12.固定資産税

固定資産税も譲渡費用になりません。

これも修繕費と同じ考え方から来ています。

不動産賃貸業をしている方について、貸地・貸家の固定資産税は、必要経費になります。
これに対して、自宅の固定資産税は、家事費(生活費)になり、どの経費・費用にもなりません。

13.税理士費用

残念ながら、不動産売却の確定申告を税理士にお願いした場合、その税理士費用も譲渡費用にはなりません・・・。

税務署はこう考えます。
「確定申告書は自分で書くのが大原則です。自分で書く人、税理士にお願いする人、不公平があってはいけない。また、譲渡に直接必要な費用ではないですからね!」

残念ながら、税務署の理屈はもっともです・・・。
ですが、一言いわせて頂くと、確かに、税理士費用は譲渡費用にはなりませんが、不動産売却に詳しい税理士に依頼した方が、税金が安くなる可能性があります。

というのも、お客様への聞き取りによる譲渡費用の漏れの確認、有利な特例の確認、その他色々な制度を確認・利用することで、税金が数十万円~数百万円も節税できることがあります。

ですので、不動産を売却した方は、税理士に一度、ご相談した方が良いかと思います。

 

譲渡費用のまとめ

不動産を売却した際に支払った費用は、譲渡費用として経費にすることができます。

ですが、この譲渡費用は、今まで確認してきたとおり、範囲がかなり限定されていることが分かります。

譲渡費用になるかどうか、迷われたら、

  • 譲渡に直接必要な経費か?
  • 売却価額を上げるために必要な経費か?

通達にあるとおり、この2つのポイントと、過去の裁判例・裁決例を確認し、総合的に判断することになります。

不動産の売却は、普通の方であれば、一生に一度か二度だと思います。
ですので、不動産売却になれている税理士に相談した方が、結果的にトクになるかもしれませんね。

不動産売却の確定申告を税理士に依頼したい。そのような方は、中央区日本橋にある当税理士事務所にご相談ください。