個人が不動産を売却した際は、どのような税金がかかりますか?
私(60歳:男性:会社員)は、地方のある土地を売却するつもりでいます。
この土地は、30年ほど前に投資目的で購入したものですが、駐車場として他人に貸していました。
地元の不動産業者に見積もりをお願いしたところ、どうやら1億円くらいで売れるのでは?とのことでした。
打ち合わせの最中、不動産業者の担当者から、
「この土地はいくらで買われました?売却益が出た場合は確定申告が必要ですよ」
との、アドバイスを受けました。
土地を売却した場合は、色々な税金や費用がかかる聞いています。
実際には、税金や費用がどれくらいかかるのか(手元にどれくらいの資金が残るのか)、今のうちからシミュレーションしようかと思っています。
不動産(土地)を売却した場合は、どれくらいの税金や費用がかかるのでしょうか?
また、税金の計算は大変なのでしょうか?
(大変であれば、税理先生にお願いすることも考えています)
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
土地や建物といった不動産を売却した場合には、色々な税金や費用がかかります。
その中でも、特に負担が大きいのが、「譲渡所得税(じょうとしょとくぜい)」と「仲介手数料」です。
具体的にご説明していきましょう。
※ ここでのご説明は、平成28年時点の法律を前提としています。不動産の税金は毎年のように改正されますので、必ず事前に税理士等の専門家にご相談ください。
個人の方が不動産を売却した場合は、つぎの税金・費用がかかります。
番号 | 税金の種類 | 特徴 |
---|---|---|
1. | 所得税・住民税 (譲渡所得税) |
売却益にかかる税金 |
2. | 消費税 | 消費税を納める義務がある方のみ |
3. | 印紙税 | 売買契約書に貼る印紙代 |
4. | 仲介手数料 | 不動産業者に支払う仲介手数料 |
5. | 司法書士費用 | 不動産の名義変更・抵当権抹消費用 |
6. | 測量費用 | 実測売買を行う場合に必要 |
7. | 税理士費用 | 税理士に確定申告をお願いする場合のみ |
1.所得税・住民税(譲渡所得税)とは?
不動産(土地・建物)を売って利益(売却益)が出た場合は、その売却益に税金がかかります。
この税金を、一般的に「譲渡所得税(じょうとしょとくぜい)」と呼んでいます。
(税金の世界では、売却を「譲渡」と呼ぶことになっています)
相手に譲渡したことによる税金なので、「譲渡所得税」と呼ぶんですね。
この譲渡所得税ですが、所得税とついているように、納める税金の種類は所得税となりますので、売却益が出ている場合は、確定申告が必要になります。
(1)譲渡所得税の計算方法は?
「譲渡所得の計算方法は?」
譲渡所得税の計算ですが、まずは売却益(譲渡所得といいます)を計算するところから始まります。
「収入金額-取得費-譲渡費用=譲渡所得」
難しい用語が出てきましたので、解説します。
- 収入金額・・・売却した金額
- 取得費・・・・・買った金額
- 譲渡費用・・・売却にかかった費用
- 譲渡所得・・・売却益
要するに、売れた金額から、買った金額と諸費用を引いた残りが、売却益となるわけです。
例えば、ご質問者様が、購入金3,000万円の不動産を1億円で売った場合は、
「1億円-3,000万円=7,000万円」
として、「7,000万円」が売却益(譲渡所得)になります。
この7,000万円に、税金の税率をかけるわけです。
考え方は簡単ですね。
ですが、いくつか注意点があります。
ここでは説明仕切れませんので、項目だけ挙げておきます。
- 収入金額(どこまでが収入か?)
- 取得費(減価償却費、取得時期、付随費用等)
- 譲渡費用(費用になるものは限定されている)
- 契約日・引渡日・取得日との有利選択
これらは、また別の機会でご説明することにしましょう。
「譲渡所得税の計算は?」
売却益(譲渡所得)が計算できたら、それに税率をかけます。
「譲渡所得(売却益)×約20%(約40%)=譲渡所得税」
ごらんのとおり、売却益の約20%(または約40%)の譲渡所得税がかかります。
この譲渡所得税の内訳ですが、
約20%の場合は「所得税約15%+住民税5%」
約40%の場合は「所得税約30%+住民税9%」
となります。
この税率の区分ですが、不動産を持っていた期間によって違うんですね。
- 5年超保有していた場合
・・・約20%(約15%+5%) - 5年未満保有していた場合
・・・約40%(約30%+9%)
要するに、税務署は
「短期間(5年以内)で転売した場合は高い税金を、長期間保有していた場合は低い税金をかけよう」
と、考えたんですね。
ご質問者様は、30年前に買った土地を売却されるとのことでした。
ですので、売却益が7,000万円の場合、約20%の譲渡所得税がかかりますので、
「7,000万円×約20%=約1,400万円」
となり、約1,400万円の税金を納める必要が出てきます。
※ 不動産の税金には、色々な特例があります。住んでいた土地建物を売却した場合、事業用不動産を交換した場合等には、有利な特例制度が設けられています。ですが、ここでは税金の基本的な考え方をご説明しておりますので、これらの特例のご説明は省略させて頂きます。詳しくお知りになりたい方は、税務署か、不動産に詳しい税理士にご相談ください。
なお、ここで約15%や約30%というご説明をしていますが、これは復興特別所得税があるからなんです。
5年超の所得税は、本来は15%ぴったりなんですが、これに復興特別所得税が2.1%追加されるので、
「15%×102.1%=15.315%」
という、とても中途半端な税率になってしまうんです。
これは、民主党が政権時代に「復興に必要な予算ぴったりに税率を決めてしまう」として、納税者や税理士のことを考えてくれなかったからなんですね・・・(泣)
ここまでで、売却益に税金がかかることは、ご理解頂けたかと思います。
(2)住民税も納める必要があります
譲渡所得税というくらいですから、所得税がかかることは、お分かりになると思います。
ですが、最初の表にあるとおり、所得税だけでなく、住民税もかかります。
具体的な流れですが、まず、所得税の確定申告を、売却した翌年の3月15日までにします。
そして、所得税(約15%分または約30%分)を税務署に納めます。
そうすると、税務署がそのデータを、お住まいの市区町村役場に通知するので、2ヶ月後くらい(5月~6月頃)に住民税の納付書がご自宅に届きます。
今回のご質問者様の場合は、住民税の納付書に、
「7,000万円×5%=350万円」
と記載されているはずです。
この住民税の納付も必要です。ご注意ください。
※ より詳しい内容をお知りになりたい方は、つぎの記事を参考にしてください。
2.消費税
今回のご質問者様は土地を売却されたとのことなので、消費税は関係ないのですが、一応ご説明させて頂きます。
事業をしていた方が、事業に関する資産(商品だけでなく不動産も含みます)を売却した場合は、消費税を買主から預かることになります。
ここでは、「事業をしていた方」と「事業に関する資産」とがポイントです。
サラリーマンが自宅を売却した場合は、事業をしていた訳ではありませんし、事業に関する資産でもないので、消費税がかかる資産(建物)を売却しても消費税を納める必要はありません。
今回のご質問者様の場合は、土地を駐車場として貸していたとのことですから、「事業をしていた方」と「事業に関する資産」の両方に該当します。
ですが、土地には、そもそも消費税がかかりませんから、結果として、消費税はかからず、不動産の売買契約書にも消費税の記載はされません。
なお、今回は関係ありませんが、土地と建物を一緒に売却するような場合は、不動産業者と相談して、きちんと土地と建物のそれぞれの金額を契約書に記載してください。
土地と建物の割合(按分)について、ご興味がある方は、次の記事が参考になります。
3.印紙税
印紙税は、皆様もおなじみでしょう。
領収書に貼ってある「収入印紙」のことです。
これも、印紙税という税金なのです。
この印紙税(ようするに収入印紙)ですが、不動産の売買契約書に貼ることが義務づけられています。
(貼らないことが税務署に分かったら、原則として罰金が発生してしまいます・・・)
不動産の売買契約書は、普通は2部(売主用・買主用)を作り、それぞれに署名・押印します。
2部作った場合は、法律で、2部とも、同じ金額の収入印紙を貼らなければなりません。
※ 買主または売主のどちらか一方が不動産業者の場合、「私の方の契約書はコピーでいいですよ」といって、収入印紙をケチる?方もいらっしゃいます。ですが、 私はあまりお勧めしません。やはり、両方とも、きちんと相手の自署・押印があった契約書を保管しておくべきだと思うんですね。
ですので、今回の売主様も、収入印紙を買ってきて、売買契約書に収入印紙を貼らなければなりません。
(実務上は、不動産業者が買ってきてくれて後日精算することになります)
では、いくらの収入印紙を貼る必要があるのでしょうか?
これは、印紙税法という法律に書いてあって、要するに、
「契約書に書いてある契約金額で判断する」
ということになっているんですね。
ですので、契約金額(売却代金)が大きければ大きいほど、高い収入印紙を貼らなければなりません。
今回のご質問者は、土地を1億円で売却する見込みとのことでした。
ですので、1億円以下のものとして「3万円」の印紙を売買契約書に貼ることになります。
なお、印紙税(収入印紙)の金額表は、こちらの「印紙税の一覧表(国税庁のサイト)」にありますが、数円ごとに改正(金額変更)がありますので、貼る前に必ず確認してくださいね。
※ 収入印紙を間違って契約書に貼った場合、税務署から戻してもらうことになりますが、その手続きがえらい面倒なので・・・。
4.仲介手数料
ここからは税金ではなく、売却に当たっての「費用」のお話しになります。
不動産は、(理屈のうえでは)個人同士で直接売買することができます。
例えば、身内同士(親子間等)で売却する場合は、不動産業者を入れないこともあります。
(その場合は、本人同士で売買契約書を作って、司法書士に名義変更をお願いします)
ですが、他人間で、不動産という高額な資産を売買する際は、一筋縄では行きません。
例えば、つぎのような問題が出てきたら、どうしますか?
- 売却後に自宅から違法埋蔵物が発見されたら?
- 測量すべきか、しないべきか?
- お隣さんと境界でもめている場合は?
- 買主側の資金繰り(銀行ローン利用)等への配慮
- 建物を解体して売るべきか?そのままか?
この他にも、色々な問題がありますから、ほとんどの場合は、不動産業者に仲介をお願いして、買主を探してもらうことになります。
※ 買主を探してもらう場合ですが、内々で探してもらう方法、ネット等でオープンに探してもらう方法、いずれかを選べますので、このあたりはベテランの不動産業者に相談するべきでしょう。
ところで、売買の仲介をお願いしたら、不動産業者に仲介手数料を払わなければなりません。
いくら払うのでしょうか?
上限は、宅建業法で決まっています。
売買金額が400万円以上の場合は、つぎの計算式が上限になります。
「売買金額×3%+6万円」
(別途、消費税が加算されます)
1億円で売却されたのであれば、
「1億円×3%+6万円=306万円(税抜)」
となり、ここに消費税がかかりますから、
「306万円×1.08=3,304,800円」
となり、約330万円の仲介手数料がかかります。
ですが、ちょっとまってください!
これは、あくまで「上限」なんです。
(要は、これ以上はもらってはダメということです)
ということは、これより安くても、ぜんぜん問題ないんですね。
というより、安くしてもらうように、交渉してみてはどうでしょうか?
例えば、不動産業者にこんなリクエストをしてはどうでしょうか?
「売買が長引いたり、売買金額が当初の提示額より上がったら、手数料の上限額を払います。だけど、意外とあっさり売買契約がきまったら、少し値引きしてもらえませんかね~?」
実際に、私のお客様の何人かは、この方法で、数十万円~数百万円をまけて?もらった方もいらっしゃいます。
もちろん、何事も安かろう、悪かろうなので、あまり値引きを強く言うと、不動産業者様のモチベーションが上がりません。
ですので、やんわりと、常識の範囲内でお願いしてみてくださいね。
5.司法書士費用
司法書士は、不動産の名義変更の専門家です。
不動産を売買する際は、当たり前ですが、不動産の名義を、売主から買主に変更しなければなりません。
具体的には、司法書士が必要書類(売買契約書、売主の印鑑証明等)を、法務局に持ち込んで手続きします。
※ 最近は、インターネットでも手続きできます。以前はその不動産がある法務局に持ち込む必要があったのですが、便利になりましたね・・・。
理屈上はプロ(司法書士)にお願いせず自分達だけで名義変更できるのですが、色々なリスクがありますから、普通は、司法書士に報酬をお支払いして、名義変更をお願いします。
司法書士に払う費用ですが、司法書士ごとに異なります。
(平成14年から、報酬が自由化されました)
ですが、売主側が払う目安としては、おおむね「3万円~10万円」だと思います。
ですので、こちらの方は、あまり気にされなくても良いかもしれません。
※ 売買金額や司法書士との打ち合わせ回数等によって、若干変動します。
また、売却しようとしている不動産に担保がついている場合(銀行借入の担保になっている場合)は、不動産の登記簿謄本に「抵当権(ていとうけん)」が付いてしまっていますので、こちらを外す費用も必要になります。
抵当権を外すには、売却代金の一部を銀行に払い、抵当権を解除してもらう必要がありますので、銀行との事前打ち合わせも必要です。
その際、心配でしたら、不動産業者様だけでなく、司法書士の先生にも、具体的な流れを確認しておきましょう。
6.測量費用
土地を売却する際は、契約書に土地の面積を記載する必要があります。
土地の面積は重要です。土地は高価な資産ですから、例えば、面積が「100㎡」だと思って買ったのに、実際は「90㎡」だったとしたら、目も当てられません。
(まあ、最近の売買では、そんなことはおきませんが・・・)
ですので、売主と買主とで、土地の面積を「合意」しておく必要があります。
ここでの面積ですが、2つの考え方があります。
- 公簿面積(こうぼめんせき)
- 実測面積(じっそくめんせき)
公簿面積とは、登記簿謄本に記載されている面積です。
この面積をもとに売買する方法を、「公簿売買」といいます。
数十年前に測量した場合は、その数十年前の面積が法務局に登録されています。その面積のことをいいます。
これに対し、実測面積というものがあります。
これは、土地家屋調査士といった、土地の面積を測る専門家が土地を実際に測って計算した、実際の(本当の)面積をいいます。
この、正しい面積をもとに売買する方法を「実測売買」といいます。
公簿売買する場合は、測量しませんので、測量費用がかかりません。
ですが、実測売買する場合は、測量費用がかかります。
土地の面積にもよりますが、普通の土地(住宅等)を測量するのであれば、おおむね20万円~100万円のあいだくらいだと思います。
(土地の面積や計上によって、値段が変わってきます)
問題は、この測量費用を誰が負担するのか?ということです。
一般的には、個人間の売買の場合は、売主と買主とが折半(半分ずつ)することが多いです。
(50万円であれば、25万円ずつといった具合です)
ですが、場合によっては売主が全額負担する場合もありますので、このあたりはお互いの話し合いで決まるでしょう。
7.税理士費用
売却益が発生した場合は、確定申告をしなければなりません。
また、住宅や事業用の土地・建物を売却した場合は、税制上の特例を使える場合があります。
ですが、この特例を使って税金が0円になったとしても、確定申告が必要になる場合が多くあります。
(これらの特例は、原則として、確定申告をしなければ使えない決まりになっているんですね)
ここで問題があります。
それは、確定申告をご自分でするのか、税理士に依頼するのか、ということです。
税理士にお願いすれば、税理士費用がかかります。
ですので、できれば、ご自分でやりたい方も多いでしょう。
ご自分でできるのか、できないのか、次が分かれ目になると思います。
- 売却金額が高額な場合(例えば数千万円以上)
- 買った時の金額が分からない場合
- 以前に買換特例等の特例を使っている場合
- 住宅等の特例を「確実に」使いたい場合
税理士にお願いした場合ですが、普通の確定申告よりも高額になることが多いです。
(例えば10万円~30万円くらい)
なぜ、売却の場合は、普通の確定申告よりも高くなるんでしょうか?
これは、税理士側で確認する事項が多く、非常に時間がかかるからなんですね。
私が実際に確認する際のポイントは次のようになります。
(もちろん、これだけではありませんが・・・)
確認事項 | 内容 |
---|---|
収入金額 | 契約書 固定資産税精算金 実測面積の精算金 |
取得費 | 購入時の契約書 なければ当時のチラシ・メモ等チェック その他不動産価格水準表調査 |
譲渡費用 | 譲渡費用になる領収書の選別 |
どの年に申告するか | 契約日と引渡日の有利選択 (取得日も有利選択する) |
特例を使えるか | 居住用財産の特例 交換の特例 その他数種類の特例有無のチェック |
不動産売却の確定申告の場合、「税務署に提出しない場合は即アウト!」といった書類が多いので、税理士も神経をすり減らします。
(もちろん、ある程度の幅を持ってお仕事をされる税理士先生もいらっしゃるのでしょうが、私はお客様にできるだけ税金を払って頂きたくないので、かなりの時間と神経を使います)
ですので、不動産売却についての確定申告費用は、一般的に高額になることが多いんです。
ですが、(不動産売買の申告になれている)税理士に依頼した方が、税金の節税が図れるかもしれませんし、何より安心です。
ですので、税理士にお見積もりをとって、予算の範囲内なら、早めに税理士にお願いしましょう。
なお、当税理士事務所でも、確定申告時期に、
「不動産を売却したので、確定申告をお願いします」
というお電話を、毎年頂戴するのですが、ご説明のとおり、計算に時間がかかります。
ですので、当税理士事務所だけでなく、他の税理士事務所にお願いされる際も、早めに(できれば確定申告期限である3月15日の1ヶ月前前ではなく、できれば1月上旬くらいまでに)、税理士にお声かけされることをお勧めします。
(当事務所でも、ギリギリにお電話いただく事案は、残念ながらお断りすることが多いんです・・・)
不動産を売却されて確定申告が必要な方は、中央区日本橋にある当税理士事務所にご相談ください。
初回1時間の無料相談を行っております。