公社債(個人向け国債)の相続税評価はいくらですか?
私は大手の税理士事務所に勤めている税理士ですが、普段は会社の決算業務をしているので、相続税の計算はする機会は、ほとんどありません。
ですが、当事務所の所長税理士先生の方針で、
「会社の決算から相続税まで、何でもできるようになりなさい」
ということで、久しぶりに、慣れないながらも相続税の計算をしております。
先日、相続があったお客様から、計算に必要な資料をお預かりしました。
事務所に戻って確認してみると、「個人向け国債」に関係する資料がありました。
(具体的には、債権取引通帳という通帳があり、そのなかに「個人向け国債」と書かれていました)
これらは、書籍で調べると、利付公社債(りつきこうしゃさい)と呼ばれるもので、元本で評価するのではなく、一定の調整計算が必要とのことでした。
この、個人向け国債の評価方法について教えてください。
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
久しぶりの相続税の計算、大変ですね。
実際に計算をされてみて実感されているかと思いますが、相続税の計算は、税理士の本業(会社決算)から、ある意味外れた業務といえます。
というのも、簿記や会計と全く関係なく、土地や金融財産の仕組みを知らなければ計算できないからです。
(これは、個人向け国債の計算にも言えますね)
これらは、「利付公社債(りつきこうしゃさい)」と呼ばれる、財産評価基本通達で評価します。
順番にご説明していきましょう。
個人向け国債は、どのように評価するのか?
国債は、国が資金調達のために発行する債券です。
発行元が国のため、元本はほぼ安全なのですが、その代わり利息がほとんど付かない、といったデメリットがあります。
一時期、個人向け国債のブームがあったせいか、ご高齢の方の相続税申告をお受けしますと、結構な割合で、個人向け国債をお持ちです。
国債にも、当然、相続税がかかります。
(相続税は、お金に見積もることができる全てのものにかかりますので)
では、その国債は、どうやって評価すれば良いのでしょか?
これは、財産評価基本通達197(相続税を計算する際の法律のようなものです)に、「利付公社債の評価」で決められています。
ここには、色々な公社債の評価について書かれています。
(個人向け国債の他にも、割引発行の公社債等も書かれていますが、ここでは、良く出てくる個人向け国債の評価について説明することにします)
個人向け国債の評価ですが、要約すると、つぎのような計算式になります。
「元本+既経過利息-中途換金調整額」
元本に、既経過利息(まだもらっていない利息)を足すのは分かります。
では、この中途換金調整額とは何でしょうか?
国債は、原則として償還期限(例えば5年や10年)まで、ずっと保有してもらうことを前提に発行されています。
ですが、何かしらの事情で、途中で換金する場合は、利息をベースとした違約金のようなものが差し引かれます。
これを、中途換金調整額といいます。
この既経過利息と中途換金調整額は、お亡くなりになった日(=相続開始日)を基準として計算されます。
ですので、要するに、「亡くなった日現在で換金したら、いくらもらえるか」を計算しているんですね。
ここで問題になるのは、中途換金調整額の計算です。
例えば、「個人向け国債:変動10年タイプ」ですと、半年ごとに利息が付いていきますので、中途換金調整額は次のように計算されます。
(財務省:個人向け国債商品概要より)
つまり、換金すると、直前2回分の利息(源泉所得税天引後)が引かれるので、この計算が面倒なんですね。
また、国債は発行年度によって利率が異なりますので、評価する際は、
- 何年タイプのものか?
- 何回目に発行したものか?
- 元本の金額はいくらか?
これらの情報を集める必要があります。
税理士が計算する際は、お客様から、個人向け国債の資料を頂きます。
個人向け国債は、以前は、「債権取引通帳」といった預金通帳タイプのもので管理されていました。
(個人向け国債を銀行経由で買いますと、銀行から預金通帳のようなものをもらいました。これで内容を確認することになっています)
ですが、最近は、この通帳タイプのものではなく、株取引のように、「取引報告書」タイプのものもあるようです。
ですので、これらいずれかの資料の写しを、お客様からお預かりして、先程の3点の内容を確認することになります。
具体的な計算方法ですが、大昔は手計算で計算していました。
また、数年前からエクセルで計算するようになりましたが、最近はさらに便利で、財務省のホームページで計算できます。
便利な時代になりましたね。
個人向け国債の評価は、上記のように、ホームページで評価額を計算できるので、そんなに難しくありません。
ですが、基本的な仕組みを理解していないと、お客様に投資のアドバイスを求められたときに、ご説明できません。
ですので、相続税を担当する税理士には、幅広い知識が求められることになりますね。
※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。