どのような財産に相続税がかかるのですか?
預金や不動産といった財産に、相続税という税金がかかることは、だいたい分かりました。
ところで、先日、友人から
「思わぬ財産に相続税がかかって冷や汗をかいたよ」
と言うことを聞きました。
聞くところよると、何でも、まだ受け取っていない生命保険契約についても、相続税をかけられたようです。
どのようなものに相続税がかかるのでしょうか?
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
相続税は、
「お金に見積もることができるすべてもの」
について、かかります。
具体的にご説明しましょう。
「お金に見積もることができる」とは、言い換えれば、経済的価値がある、ということです。
間違えやすい点について確認してみましょう。
1.形のあるもの
現金、預金、不動産(土地:建物)といった、かたちのある財産については、もちろん相続税がかかります。
これは、どなたでも、直感的にご理解頂けるかと思います。
また、書画や骨董品、貴金属(宝石)についてもかかります。
さらに、高価な庭石や高価な錦鯉といった財産にも、相続税はかかります。
何しろ、「お金に見積もることができるもの全てに相続税をかける」と、税務署は言っているのですから・・・。
(これらをいくらでいくらとして計算するかは、また別の機会でご説明することにしましょう)
2.形のないもの
かたちのないものとは、例えば、電話加入権が挙げられます。
若い方は、電話加入権に価値があるといってもピンとこないかもしれませんが、昔は自宅に電話を引くときは電話加入権が必要でしたし、高額で取引されていた時期もありました。
今も電話加入権は相続税の対象になります。(といっても、数千円程度の価値で計算するのですが・・)
また、著作権といった財産にも相続税はかかります。
相続した方は、印税収入が数年~数十年、見込めますから、経済的価値があるとされるんですね。
さらに、意外な財産についても相続税はかかります。
具体的には、営業権です。
営業権とは、「商売をしていていた方のブランド価値(超過収益力)」というべきものです。
例えば、個人で、とても儲かっている商売があるとします。
(今の時代、なかなか儲かる商売はありませんが・・・)
その場合、税務署はこう考えます。
「この商売はとても儲かっているなあ。**(例えば商品名)というブランド名が定着しているからだろう。こんな儲かる商売は誰が引き継いでも儲かるだろう。この過剰に儲かる分(超過収益力)については、形はないけれども相続税をかけよう!」
理屈は分かるのですが、実際にまだ儲かっていないのに、儲かっているとして税金をかけるのは、何か無茶苦茶なような気がしますが、そのようになっているのですね。
この営業権については、普通の儲かり方では、まずかかりません。
ちょっと、異常なくらいに儲かっている個人事業、会社でなければ、かかりません。
以前、私(税理士:石橋)が担当させて頂いた案件では、この営業権がでそうな案件がありました。(結果的には営業権は出ませんでしたが)
医療系の同族会社で、かなりの利益をあげていらっしゃっいましたので、営業権の発生が疑われます。
このような場合、税務署に「営業権をきちんと計算しましたが、結果として、発生していませんでした」
という書類を出すと良いでしょう。
というのも、この営業権については、税理士でも知らない方がほとんどで、計算忘れをすることが多いんですね。
そのため、税務署へ、このような書類を出すと、好印象と言えるでしょう。
3.相続財産でないもの(みなし相続財産)
被相続人(例えば父上)がお亡くなりになられて、生命保険金をお受け取りになった方もいるでしょう。
生命保険金は、法律上は相続財産にはなりません。
というのも、生命保険契約は、契約した段階で、相続人(受取人)の権利となってしまうのです。
ですから、亡くなった被相続人の遺産にはなりませんし、遺産分割協議の対象にもなりません。
(たまに、生命保険金を遺産分割協議書に記載している税理士先生もいらっしゃいますが、これは基本的には間違いです。)
そうすると、このようにお考えになる方がでてきます。
「持っているお金の全部を生命保険にして息子に残そう」
これをやられますと、税務署も相続税をとることができません。
(先程のご説明のとおり、生命保険金は相続財産ではないため、原則通りに考えると、相続税をかけられません)
そこで、税務署は、
「相続財産ではないけれども、実質的に、相続財産になるものにも相続税をかけよう!」
と考えました。
これを、「みなし相続財産」といいます。
代表的なものは、さきほどの生命保険金ですが、次のような財産も「みなし相続財産」になります。
間違えやすいものについて、挙げてみました。
- 生命保険金
- 退職金
- 生命保険契約に関する権利
- 債務免除益
- その他もろもろ
順番にご説明しましょう。
(1)生命保険金
被相続人がお亡くなりになって、ご家族が生命保険金を受け取った場合、原則として、受け取った生命保険金に相続税がかかります。
何故かというと、保険料は亡くなった被相続人が負担していたからです。
ですが、保険料を被相続人が負担せず、受取人が負担していた場合は、受取人自身に税金(所得税の一時所得)がかかることになります。
(事例としては、あんまり多くないのでしょうが・・・)
なお、生命保険金は、誰が契約者なのか、誰が保険料を負担していたかで、どの税金がかかるか、めまぐるしく変わります。
次の表を参考にしてみてください。
被保険者 |
保険料支払人 (契約者) |
保険金受取人 | 税金 |
夫 (被相続人) |
夫 | 妻 |
相続税 (死亡保険金の非課税枠あり) |
夫 | 相続人以外 |
相続税 (死亡保険金の非課税枠なし) |
|
妻 | 子 | 贈与税 | |
子 | 子 | 所得税(一時所得)・住民税 |
(2)退職金
お亡くなりになった被相続人が、会社員や会社役員で会った場合、遺族の方が死亡退職金を受け取ることがあります。
これも、本来であれば、被相続人は関係なく、受け取った相続人固有の財産になるのですが、これでは、生前にもらっていた場合と税金上の不公平が生じますから、相続税をかけることになっています。
(3)生命保険契約に関する権利
これは漏れやすいので、ご注意ください。
生命保険契約に関する権利とは、「まだ保険事故(死亡)が発生していない保険契約」というものです。
よくあるのが、父が子供のためにかけた、次のような生命保険契約です。
- 保険契約者・・子
- 保険料負担・・父
- 被保険者・・・・子
- 保険金受取人・・子の子(孫)
この生命保険契約については、父上が亡くなったときは、何ら特別なことはありません。
(生命保険金は支払われませんので)
子供は、自分が契約している生命保険金に相続税がかかるなんて、思いもしないんですね。
ですので、このような場合は、税理士の方から、
「あなた(子)が契約している生命保険の保険料は、どなたがお支払いになったのですか?」
と、積極的に聞く必要があるのです。
そして、父上が負担しているのであれば、今解約したらいくらになるか(解約返戻金)を保険会社に計算してもらい、その金額を相続税計算に織り込む必要があるのです。
この生命保険に関する権利は、ある意味、税理士泣かせな部分があります。
相続人の方に、細かく聞き取りしなければなりませんし、相続人の方も、はっきりおっしゃらないこともあるからです。
ですが、税務調査等では、チェックされます。
税務署は何故分かるのでしょうか?
それは、お亡くなりになった父上のお金の流れ(過去数年~10年程度の預金通帳チェック等)をしているからなんですね。
そして、大きな金額の出金や、子供の年収と比較して高すぎる保険料を払っているか、様々な観点でチェックするから分かるんですね。
(見落とすこともあるんでしょうが・・)
ですので、生命保険契約に関する権利については、くれぐれもお気をつけください。
(4)債務免除益
これは、たまにですが、実際にあります。
何かと言いますと、亡くなった方が、貸していたお金の返済を免除してあげる、といったものです。
亡くなった被相続人の遺言書のなかに、
「長男に対して貸したお金1,000万円について、その返済を免除する」
という文面が書かれている場合があります。
(私も1回くらいしか見たことがありませんが・・・)
その場合、長男は1,000万円を父からもらった(相続した)と同じ効果がありますから、長男は1,000万円を相続税の計算に入れる必要があります。
長男は、
「貸付金1,000万円:借入金1,000万円」
と、自分自身に貸付金と借金を同時に負うことになりますが、この場合は当然、両者が相殺されます(混同(こんどう)という考え方です)。
当然、借金はなくなります。
このような場合、長男に相続税についてご説明するのは、なかなか難しいです。
というのも、実際にお金が動いていない(もらっていない)のに、相続税が払えるか!と言われてしまう可能性があるということです。
ですが、法律でそのようになっていますから、きちんと計算しなければなりません。
相続税は、意外なものにもかかる、ということが分かりました。
この財産に相続税がかかるのか、かからないのか、迷われたら、
「お金に見積もることができるか?」
という基準で判断すると、分かりやすいかもしれませんね。
※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。