新たな遺産が見つかりそうな場合、遺産分割協議書はどう作ればよいか?(相続税・贈与税との関係)
3ヶ月前に父(享年80歳)が亡くなりました。
父の家族構成(相続人)はつぎのとおりです。
- 父(A)・・・80歳
- 母(B)・・・77歳
- 長男(C)・・・45歳
- 長女(D)・・・・40歳
相続手続きは、長男(45歳)である私が、家族を代表して行うことになっています。
ところで、父の遺産は、自宅や預金を入れても、合計で約4,000万円ほどですので、相続税はかからないと思います。
また、家族はみんな仲が良いため、税理士先生や弁護士先生といった専門家の先生にお願いせず、私が遺産分割協議書を作って、相続の手続きをしようかと思います。
ところで、父は生前ゴルフが好きで、いくつかゴルフ会員権(ゴルフ場の利用できる権利)を持っていたようです。
ですが、父の遺品を探しましたが、どこにも、それらしいものは見つかりませんでした。
(ただし、もしあったとしても、価値は100万円程度にしかならないと思います)
引き続き探してはみますが、遺産分割協議書を作りませんと、預金や不動産の名義変更が進みません。
ですので、とりあえず、今わかっている財産で、遺産分割協議書を作成する予定です。
ところで、遺産分割協議書を作成した後に、新たな遺産が見つかった場合はどうすれば良いのでしょうか?
また、今回のように、遺産分割協議書を作成する前に、あらかじめ、遺産が見つかりそうな場合も、どのようにすれば良いのでしょうか?
なお、もしゴルフ会員権が見つかった場合は、私(長男)が相続したいと思っています。
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
遺産分割協議書を作成する際に、原則として、お亡くなりになった被相続人様の全ての遺産(財産)を記載することになっています。
ですが、遺産分割協議書を作成した後に、新たな遺産が見つかることもあるかもしれません。
そのような場合、つぎの2つの方法が考えられます。
- 見つかった遺産についての遺産分割協議書を、新たに作る
(遺産分割協議書は2通に分かれても問題ないため) - 最初に作る遺産分割協議書に、新たに見つかった遺産の取り扱いについて記載しておく
今回は、この2.の方法について、ご説明していきたいと思います。
※ 遺産分割協議書の細かな内容(特に法律部分について)は、弁護士先生といった法律の専門家にご相談されることをお勧めします。
遺産分割協議書を作成した後に、新たな遺産(財産)が見つかった場合は、その見つかった遺産について、再度、遺産分割協議書を作ることになりますが、最初の遺産分割協議書に、あらかじめ、一定の文章を入れておけば、新たに遺産分割協議書を作らなくても良い場合があります。
ですが、書き方によっては、相続人間での争いや、税金(相続税・贈与税)の問題が起きるかもしれません。
そのため、遺産分割協議書の書き方に注意する必要があります。
具体的にご説明していきましょう。
なお、遺産分割協議書の基本的な書き方についてお知りになりたい方は、こちらのページをご覧ください。
新たな遺産が見つかりそうな場合には、遺産割協議書はどうすればよいのか?
遺産分割協議書を作成する際は、お亡くなりになった被相続人(今回はお父様)の全財産を調べて作成しますので、基本的には、財産の漏れはないはずです。
ですが、遺産分割のお話し合いは、相続手続きでバタバタしているときに行うものですから、どうしても、遺産分割協議書に書き切れない(つまり、漏れてしまう)財産もあるかと思います。
そのため、遺産分割協議書の最後の方には、新たに発見された財産の取り扱いを書いた方が良いかと思います。
その書き方は、大きく分けて3とおりの方法があります。
- 再度集まって遺産分割の話し合いをする方法(原則的な方法)
- 「全て**が取得する」と記載する方法
- 「法定相続分で取得する」と記載する方法
それぞれのメリット、デメリットについてご説明していきましょう。
(1)再度集まって遺産分割の話し合いをする方法(原則的な方法)
最初に作成する遺産分割協議書の最後に、つぎのような文章を加える方法です。
上記の遺産及び債務以外に、新たな遺産及び債務が発見された場合には、相続人B、相続人C、相続人Dが再度遺産分割協議をして、遺産及び債務を取得・承継するものとする。
このように記載した場合、新しく発見された遺産については、全員で再度話し合うのですから、一番公平な方法です。
この「公平」というのが、一番のメリットです。
デメリットとしては、(当たり前ですが)再度、話し合いの場を設けなければなりません。
相続人のなかに、遠方の方がいらっしゃった場合、話し合いが難しい場合も考えられます。
また、遺産分割協議書も、再度作成し、相続人全員の自署押印が必要となります。
(ただし、新しく見つかった部分だけを記載すれば良いので、1枚程度に収まると思いますが)
この方法が、一番オーソドックスなのですが、次のような方法も実務上は、よく行われています。
(2)「全て**が取得する」と記載する方法
新しい財産が見つかるたびに、また集まるのは大変ですし、面倒です。
そのような場合、遺産分割協議書の最後の方に、つぎのような文章を加えることになります。
上記の遺産及び債務以外に、新たな遺産及び債務が発見された場合には、相続人B(被相続人の配偶者)が全ての遺産及び債務を取得・承継する。
このように記載した場合は、新たに見つかった遺産は、相続人B(お母様)が取得することになりますから、もう一度、遺産分割協議のお話し合いをする必要はありません。
ですので、遺産分割協議書をもう1枚、作る必要はありません。
手続きがラクになる。これがメリットです。
逆に、デメリットとしては、遺産が見つかった場合は、母が強制的に相続してしまう、ということです。
例えば、1,000万円の預金が、新たに見つかったとしましょう。
この場合、お母様が、
「私は年金で充分暮らしていけるから、この1,000万円は長男と長女に半分ずつ相続させたい」
と思われても、原則として、そうすることはできません。
なぜなら、上記の文章によると、お母様が相続することになっているからなんですね。
これを、(無理矢理)長男と長女に相続させたとしましょう。
具体的には、銀行に行って、預金の名義変更をして、長男と長女に500万円ずつ渡すのです。
そうすると、税務署は次のように考えます。
「この1,000万円は、遺産分割協議書では、お母様が相続したことになっていますよね。ですから、お母様がいったん相続し、それを500万円ずつお子様にあげた、といことになりますね。そうすると、贈与したことになりますので、長男様と長女様は、贈与税を払ってくださいね!」
要するに、税務署は、お金がこのように流れたと考えるんですね。
お父様→(相続)→お母様→(贈与)→お子様
税務署の理屈は、筋が通っていますね・・・。
万が一、このような指摘をされますと、(もし相続税がかかる場合は)相続税と、贈与税の、2つの税金がかかってしまうことになります。
ですので、このような文章にしてしまいますと、、遺産の取得者を原則として変更できませんから、充分注意して記載して頂きたいものです。
※ ただし、遺産分割協議書作成時に、全く、想定もしていないような財産が見つかった場合は、取得者の変更を税務署に認めてもらえる場合もあるかもしれません。
ですので、このように記載する場合は、
「財産が見つかったとしても少額のものであろう」
そのような場合になるかと思います。
(3)「法定相続分で取得する」と記載する方法
上記(2)のように、遺産分割協議書に
「新たな遺産が見つかった場合は**が取得する」
と書いてしまった場合で、大きな金額の預金が見つかった場合は、相続人の間で、争いが起きてしまうかもしれません。
そのためには、相続する方を変更しなければなりませんが、そうすると、先程のご説明のように贈与税の問題が発生してしまうかもしれません。
そこで、(1)と(2)の方法の折衷案(せっちゅうあん)として、この方法がとられることもあります。
上記の遺産及び債務以外に、新たな遺産及び債務が発見された場合には、各相続人の法定相続分の割合で取得・承継するものとする。
このように記載すれば、新たなに銀行預金が見つかった場合でも、遺産分割協議書をする必要がないですし、法定相続分どおりに預金が分配されます。
この方法は、
「再度集まれないけれども、ある程度公平に分けたい」
そのような場合に、とる方法です。
どの方法で遺産分割協議書を作成すれば良いのか?
今回のご質問者様のケースの場合、つぎがポイントとなります。
- ご家族間の仲はよろしいのか?
- 遠方の相続人様はいらっしゃらないか?
- 大きな金額の遺産が隠れていないか?
最初に申し上げますと、この3つの方法では、手間がかかりますが、
「(1)再度集まって遺産分割の話し合いをする方法(原則的な方法)」
の方法が、一番良い方法です。
というのも、一番公平ですし、万が一、多額の遺産がみつかっても、きちんと誰が何をもらうかを決められるからです。
ただし、それは相続人様同士、仲が良いことが前提です。
仲がよろしくなく、遺産分割の話し合いは最初の1回~2回しか設けられない。
そのような場合では、言葉は悪いですが一発勝負ですから、何とか、その場で全てを決めなければなりません。
また、仲がよろしくても、あまりに遠方の相続人様がいらっしゃった場合も問題です。
多額の預金を誰が相続するのか、そのお話をお電話だけで済ませると、あらぬ誤解を生むかもしれませんから。
ただし、今回のケースですと、
- ご家族様の仲がよろしい
- 発見できていない遺産がある程度は特定できている(ゴルフ会員権)
- 未発見の遺産が少額
ということになりますので、「(2)「全て**が取得する」と記載する方法」の応用編で、
上記の遺産及び債務以外に、被相続人A名義のゴルフ会員権(ゴルフ場利用権)が発見された場合には、相続人C(被相続人の長男)が取得する。
と記載することも、1つの方法であると思います。
(もちろん、他の相続人様の同意が得られていることが条件ですが)
法律では、遺産分割協議のやり直しが認められていますので、何度でも、遺産分割協議書の書き直し(修正)をすることができ、誰が相続するか変更することができます。
ですが、税金上(相続税・贈与税)では、一度決めた遺産分割協議書の内容は、原則として変更できません。
(さきほどのご説明のとおり、変更すると贈与税がかかる可能性があります)
私が実務で遺産分割協議書を作成する際は、多くの場合、「(1)再度集まって遺産分割の話し合いをする方法(原則的な方法)」の方法で作成します。
というのも、今までのご説明のとおり、(2)や(3)の方法で作ってしまうと、新たな遺産が発見された場合、取得者を原則として変更できないからなんですね。
このあたりは、税理士が時間をかけて、ご依頼者様(相続人様)にきちんとご説明することが大切です。
相続税を担当する税理士には、税金だけでなく、色々な知識や経験が求められますね。
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※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。