遺産分割協議とは何ですか?
母が亡くなりました。
(父は10年前に既に他界しています)
相続人は、長男(A)、次男(B)、三男(C)の三人です。
この場合、3人で話し合いをして、母の財産をどうするか決めなければならないと思います。
具体的には、どのような話し合いをすれば良いのでしょうか?
なお、母は遺言書を作ってはいませんでした。
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
亡くなった方(被相続人)の財産について
- 誰がどの財産をもらうのか
- どのような形でもらうのか
遺されたご家族様で話し合いをして、これらを決めなければなりません。
この話し合いのことを、「遺産分割協議」といいます。
この遺産分割協議をきちんとしないで、勝手に財産をもらったり、売却したりすることはできません。
(勝手に処分しますと、法律的に無効となる可能性があります)
具体的にご説明していきましょう。
遺産分割協議は、注意するポイントがいくつかあります。
具体的には、次に注意してみてください。
(1)財産目録を作る
まずはお亡くなりになった被相続人(母上)の遺産のリスト、いわゆる財産目録(ざいさんもくろく)を作成することをお勧めします。
というのも、ご兄弟3人で、誰がどの財産をもらうのか、話し合うにも、財産の一覧が分からないと話し合いが進まないからです。
(2)話し合いの場を設ける
遺産の分け方を決めるため、原則として相続人全員(3人全員)が集まって話し合う必要があります。
このケースで多いのは、長男の自宅に集まるのが一般的でしょうか。
その際の注意点として、相続人「以外」の方を参加させない、ということが挙げられます。
よくあるのが、相続人配偶者(この場合ではそれぞれの奥様)が参加して、まとまる話もまとまらない、といった事があります。
地方の相続で多いのですが、地方では、車が主な移動手段です。
例えば、相続人が女性の場合、運転できないことも多いですから、配偶者(夫)に運転して、代表者である長男の自宅に連れてきてもらうこともあるでしょう。
そのような場合、女性の夫は相続人でないため関係ありませんが、流れで話し合いに参加してしまうことがあります。
ですので、このようば場合は(事情にもよりますが)、
「遺産分割の話し合いはご先祖様にご報告しなければなりませんから、仏壇があるお部屋で、相続人同士で話し合います。そのため、旦那さんは別室でお待ち頂けますか?」
と、司会役の方が伝える必要があると思います。
(もちろんケースバイケースなのですが・・・)
繰り返しますが、他人が入ってきますと、話し合いがなかなかまとまらないことが経験上多いので、お気をつけください。
また、相続人が一箇所に集まれない場合もあるかもしれません。
例えば、
- 長男・・・東京在住
- 次男・・・北海道在住
- 三男・・・沖縄在住
といった場合、一度に集まることが難しいようであれば、電話での話し合いでも遺産分割協議を進めることができます。
その場合は、合意した内容を、遺産分割協議書といった書面に残すようにしましょう。
(3)具体的な分け方を話す
財産をどのように分けるかも大切です。
相続税がかかる方は、分け方によって、相続税が増えたり減ったりすることがありますので、そちらの注意も必要です。
分け方は大きく分けて3つの方法(「現物分割」「代償分割」「換価分割」)がありますが、後で詳しくご説明します。
(4)内容を書面に残す(遺産分割協議書を作る)
法律では、遺産分割協議の話し合いを書面にしなさい、とは言っていません。
ですが、実務上は、必ず遺産分割協議書を作成しています。
といいますのも、遺産分割協議書がないと、他の関係者が、誰がどの財産をもらうかが分からないからです。
例えば、銀行に預金の解約手続きにいった際、銀行は、遺産分割協議書がないと、本当にその方に預金を渡して良いのか分かりません。
また、不動産を名義変更する際も、役所(法務局)は、遺産分割協議書を見ませんと、誰がどの不動産を相続するのか分かりません。
ですので、遺産分割協議書を必ず作る必要があります。
また、この事例とは関係ありませんが、相続人がお一人の場合は、そもそも遺産分割協議をする相手がいませんから、遺産分割協議書の作成は不要となります。
遺産分割の3つの方法について
遺産分割の方法は、大きく分けて、次の3つの方法があります。
- 現物分割(げんぶつぶんかつ)
- 代償分割(だいしょうぶんかつ)
- 換価分割(かんかぶんかつ)
事例をふまえてご説明していきましょう。
(1)現物分割
お亡くなりになった被相続人(母上)が持っていた財産について、「誰が」「何を」もらうかを決める遺産分割の方法です。
この図のように、Aは現預金を、Bは自宅(土地建物)を、Cは車とその他の財産を、といった具合にです。
私の経験上、ほとんどの遺産分割がこの「現物分割」という方法ですし、最も一般的な方法です。
(2)代償分割
代償分割とは、簡単に言えば、
「一人がたくさんの財産をもらう。その代わりに、多くもらった方は少なくもらった方へお金(お金以外でも可)を払う」
といった分割の方法です。
よくあるのが、不動産がある場合の遺産分割です。
不動産を共有で相続させると、
- 一人の判断で処分できなくなる
- 共有相手に相続が発生したときに権利が細かく分かれていってしまう
- やはり長男であるAが自宅を守るので不動産を相続するべきだろう
といった考えのもと、長男が多く相続してしまうことがあります。
その調整として、Aが持っているA固有の財産(例えばAがお給料から貯めていた自分自身の預金)から、Cに対してお金を払うことがあります。
これを「代償分割(だいしょうぶんかつ)」と呼んでいるのです。
(お金ではなく、不動産や株券で払うことも可能です。ですが税金の問題が発生するので、普通はお金で払います)
換金できない不動産がある場合、この換価分割といった方法により遺産分割することがあります。
なお、Cの立場からしますと、Aがきちんとお金を支払ってくれるか不安になります。
そのような場合は、銀行借り入れと同じように、不動産に抵当権をつけることも可能です。
(代償金の金額が多くなく、家族間で仲が良ければ、そこまでしなくても良いかもしれませんが)
(3)換価分割
換価分割とは、「お金に換金してから分配する」といった遺産分割の方法です。
(換金して分割するので換価分割という言い方をします)
よくあるのが(といっても換価分割自体、そんなに多く行われませんが・・・)、不動産を売却して配分する、株式を売却してから配分する、といった方法です。
ただ、換価分割の問題点として、税金が挙げられます。
特に、大昔にご先祖様が買われた不動産を売却した場合、多額の売却益に多額の税金が発生する可能性がありますから、換価分割をする際は、税理士等に税金を計算してもらってから行うようにしてください。
話し合いがまとまらない場合は共有状態になる
遺産分割の話し合い、つまり、誰が何を相続するかが決まらない場合は、共有状態になります。
具体的には、法定相続分の割合で共有して保有することになります。
この状態ですと、次のような問題があります。
- 預貯金は原則として解約(引き出し)できない
- 不動産は全員の意見が一致しないと処分(売却)できない
例えば、この図のとおり、不動産を誰が相続するか決まらない場合は、ABC3人の共有になります。
この状態ですと、Aはそのままにしておきたい、BとCは売却したいと意見が食い違った場合、原則として売却できません。
(不動産業者にBCの共有持分だけを売却することも可能ですが、買いたたかれてしまいますし、何よりAの立場が不安定になってしまいます・・・)
ですので、不動産については、できるだけ共有状態は避けた方がよいと言えます。
色々な遺産分割の方法を見てきましたが、実務上は、ほとんどの場合、現物分割で遺産分割を行っています。
次に可能性があるのが代償分割。換価分割はかなり希なケースとなります。
私自身、色々なケースで、相続人同士の遺産分割協議のお話し合いに同席させて頂きました。
そのなかで思うのは、
- 相続人「だけ」で話し合うこと
- 財産目録(財産リスト)を作成して情報をきちんと公開すること
- 普段から交流して話し合うこと
上記が、やはり大切だと感じました。
以前、私が参加させて頂いた遺産分割協議のときのお話しです。
その場で、相続人「以外」の方(相続人の夫)が、突然、声を荒げて、他の相続人を非難する言葉を浴びせたことがありました。
詳細は、守秘義務がありますから省きますが、やはり、相続人以外の方が入ると、まとまる話しもまとまらないことがあります。
例え仲の良いご家族同士でも、きちんとした準備が必要だと思われます。
※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。