相続人や法定相続分とは何ですか?
父がなくなりました。家族は母と長男である私、そして弟2人(次男と三男)がいます。
このような場合、誰が父の財産を相続できるのでしょうか?
また、相続できる人間が複数いる場合、どのような割合で父の遺産をもらうことができるのでしょうか?
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
お母様とお子様3人が、父上の遺産を相続することができます.
遺産を相続する割合は、皆様のお話し合いで決めることになります。
ですが、万が一、お話し合いがまとまらない場合は、法定相続分を参考にお話し合いを進めることになります。
なお、相続人や法定相続分をお調べになる際は、役所から戸籍謄本(こせきとうほん)を取り寄せて調べることになります。
まずは、相続のお手続きで良く出てくる用語について、ご説明させて頂きます。
- 被相続人(ひそうぞくにん)
お亡くなりになった父上のこと - 相続人(そうぞくにん)
父上の遺産を相続(もらう)することが出来る方
被相続人とは、お亡くなりになった方をいいます。この場合は父上ですね。
相続人とは、父上の遺産を相続できる権利がある方をいいます。
難しい言い方をすると、「法定相続人(ほうていそうぞくにん)」と呼ぶこともあります。
相続人が誰になるかを、一番最初に確認することが大切です。
なぜ、相続人を調べるのが大切か?
相続人は、被相続人の遺産を全て引き継ぎます。
この「全て」というのがポイントです。
というのも、プラスの遺産だけであれば良いのですが、例えば、父上に次のような、マイナスの遺産があったら、皆さんどうしますか?
- 銀行からの借入金や他人からの借金(分からないものも含む)
- 裁判中の損害賠償請求権
なくなった父上のお金使いが荒く、家族のコミュニケーションが取れていない場合、どこに借金があるか分かりません。
そのような場合、相続放棄(手続きの期間が決まっています)等の手続きをしませんと、相続人が自動的に借入金を引き継いでしまいます。
何せ、「全て」を引き継ぐのですから・・・。
また、父上が仕事上のトラブルや交通事故等で損害賠償義務を負ってしまった場合、こちらも、何もしないと相続人が損害賠償義務を引き継ぎますから、気をつけましょう。
相続人とは?
相続が発生したことにより、相続人となる人を相続人といいます(正確には「法定相続人」といいます)。
相続人は、先程の説明のとおり、被相続人(父上)がもっていた財産、債務の全てを相続(引き継ぐ)ことになります。
先程、家族が相続人になると説明しましたが、正確にいいますと、次のように順番が決まっています。
(配偶者は常に相続人となりますが、それ以外の相続人は順位が決められています)
1.配偶者
被相続人の配偶者(この事例ではお母様)は、必ず相続人となります。
ここでいう配偶者とは、法律のお手続きにより、婚姻届を提出した方いいます。つまり、きちんと籍を入れた方ということですね。
ですから、内縁関係や事実婚の場合でも、婚姻届を提出していなければ配偶者とはなりません。
言い換えると、相続する権利がないということになります。
ですから、事実婚や内縁関係の方で、お相手にきちんと財産を残したい場合は、きちんと籍を入れることも検討してみるべきですね。
2.子供(第1順位)
配偶者は必ず相続人となりますが、お子様がいらっっしゃる場合は、奥様の他に、お子様が相続人となります。
ですから、ご質問のケースでは、奥様とお子様3人の計4名が、相続人となります。
また、お子様が万が一、お亡くなりになっていた場合には、そのお子様、つまり被相続人の孫やひ孫が相続人となります。
3.直系尊属(第2順位)
お子様がいらっしゃらない場合は、被相続人の上の世代の方、つまり父上の父上、父上の母上がご存命でないか確認します。
もしお子様がいらっしゃらず、被相続人のご両親のどちらかでもご存命であれば、配偶者とその方の両方が相続人となります。
4.兄弟姉妹(第3順位)
もし被相続人にお子様がいらっしゃらず、ご両親も他界されているのであれば、被相続人のご兄姉が相続人となります。
また、そのご兄姉もお亡くなりになっていた場合は、そのご兄姉のお子様が相続人になります。この場合は、子供(第1順位)と異なり、1回だけ代襲(つまり兄妹の子供の子供は相続人とならない)することになります。
≪相続人のまとめ≫
順位 | 相続人 | 参考 |
配偶者 |
常に相続人になります | 婚姻届を提出している方だけが相続人となります。 内縁の妻は相続人になることができません。 |
第1順位 |
子供 | 代襲相続人(孫・ひ孫等)も相続人になれます。 |
第2順位 |
直系尊属 | 被相続人の両親・祖父母等 |
第3順位 |
兄弟姉妹 | 甥・姪までが代襲相続人となります。 |
法定相続分とは何ですか?
法定相続分(ほうていそうぞくぶん)とは、簡単に言いますと「相続できる割合」です。
相続分とも言います。
この法定相続分ですが、どのような場合に使うのでしょうか?
民法という法律があり、「遺産はこの割合(相続分)を参考に分けるように」
と、遺産分割の目安が決められています。
ですが、必ずこの割合に従わなければならないかというと、そうではありません。
この割合は、あくまで、「遺産分割の話し合いが決まらない場合に参考にする」ということになります。
奥様が全財産を相続する、長男が全財産を相続する・・・。
その家庭ごとのご事情がありますから、法定相続分は、あくまで、遺産分割の話し合いが決まらなかった場合に参考にする割合、ということになります。
ですから、弁護士が入るような揉めた遺産分割の場合は、弁護士は当然に法定相続分を主張すると思われます。
また、たまにですが、「相続分どおりに遺産を分けないと贈与税がかかるんですか?」というご質問を受けます。
これは全くの誤解で、結論から言いますと、法定相続分どおりに遺産を分けなくても、贈与税がかかることはありません。
ご安心ください。
具体的な法定相続分
法定相続分は、遺産分割の参考にもしますが、相続税の計算でも使います。
ですので、間違いのないようにしたいものです。
法定相続分は、民法第900条に決められていて、それぞれの割合はつぎのようになっています。
子供・直系尊属・兄弟姉妹の順位が同じで、相続人が複数いる場合は、それぞれの相続分は同じになります。
① 配偶者と子供が相続人である場合
配偶者の相続分・子供の相続分は、それぞれ1/2ずつになります。
子供が3人いる場合は、1/2をさらに1/3することになり、子供1人分の相続分は1/6となります。
今回のケースでは、こちらの割合により判断することになります。
② 配偶者及び直系尊属が相続人である場合
配偶者の相続分は2/3となり、直系尊属(父上のご両親)の相続分は1/3となります。
父上の父上、母上両方ともご健在の場合は、1/3をさらに1/2することになり、1人分の相続分は1/6となります。
③ 配偶者及び兄弟姉妹が相続人である場合
配偶者の相続分は3/4となり、兄弟姉妹の相続分は1/4となります。
兄弟姉妹が複数人いる場合は1/4をさらに人数で割ることになります。
≪法定相続分のまとめ≫
相続人 | 法定相続分 | |
配偶者と子 (第1順位) |
配偶者 | 1/2 |
子 | 1/2 | |
配偶者と直系尊属 (第2順位) |
配偶者 | 2/3 |
直系尊属 | 1/3 | |
配偶者と兄弟姉妹 (第3順位) |
配偶者 | 3/4 |
兄弟姉妹 | 1/4 |
≪法定相続分の具体例≫
【配偶者と子3人】
<それぞれの相続分>
配偶者:1/2
甲乙丙:それぞれ1/2×1/3=1/6
【配偶者と子及びその代襲相続人】
<それぞれの相続分>
配偶者:1/2
甲:1/2×1/2=1/4
丁:1/2×1/2=1/4
【配偶者と父母】
<それぞれの相続分>
配偶者:2/3
父:1/3×1/2=1/6
母:1/3×1/2=1/6
【兄弟姉妹】
<それぞれの相続分>
甲:1/2
乙:1/2
【配偶者及び兄弟姉妹の代襲相続人】
<それぞれの相続分>
配偶者:3/4
乙:1/4×1/2=1/8
丁:1/4×1/2=1/8
相続人・法定相続分のまとめ
相続人や法定相続分を調べる際は、役所から戸籍謄本(こせきとうほん)を取得することになります。
戸籍謄本は役所からもらうのですが、ここで注意点があります。
それは、役所の窓口で
「被相続人(父)の、生まれた時からなくなるときまで、つながる戸籍謄本を取り寄せたい」
と申し出てください。
戸籍謄本は、銀行預金の解約、不動産の名義変更等、相続手続きで必ず必要になるものです。
不動産の名義変更をされる方は、戸籍謄本の取り寄せを司法書士に、一緒にお願いするとラクです。
相続人の調査、法定相続分は、相続手続きを進める際の基礎中の基礎になります。
お間違いのないよう、ご注意ください。
※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。