特定遺贈や包括遺贈とは何ですか?
遺言書を作った方が良いとの友人の勧めにより、遺言書を作ることになりました。
遺言書の書き方、表現について、気をつけることはありますか?
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
遺言書を作られる際は、
- 「誰が?」
- 「どの財産を取得するのか?」
が、誰が見ても分かるように作成してください。
具体的にご説明していきましょう。
遺言書の書き方に、決まりはありません。
最低限、書かなければならない事項(遺言者のお名前等)はありますが、それ以外は、ある程度自由に書いて良いことになっています。
ですが、遺言書の最大の目的は、「財産を希望する方に遺す」、ということですから、それを実現できるようにしなければなりません。
具体的には、包括遺贈(ほうかついぞう)ではなく、「特定遺贈(とくていいぞう)」で遺言書を書く、ということです。
私自身、特定遺贈か包括遺贈かで、さんざん悩んだ経験がありますので、その経験を踏まえてご説明させて頂きます。
1.特定遺贈とは?
特定遺贈(とくていいぞう)とは、「Aの財産を長男に渡す」といったように、財産ごとに渡す方を指定する方法です。
イメージすると、次のようになります。
お金はAへ、自宅はBへ、車はCへといった具合に、財産ごとに個別具体的に指定するのが特定遺贈という方法です。
この方法ですと、財産ごとにもらう方が決まっておりますので、例え相続人ABC同士で仲が悪くても、遺言書通りに淡々と進めることが可能です。
遺言書の文面はつぎのようになります。
1.遺言者はその所有する下記の現金・銀行預金の全てを、遺言者の妻Aに遺贈する。(現金・銀行預金の具体的な情報)
2.遺言者は、下記の土地建物を、遺言者の長男Bに遺贈する。
(土地建物の具体的な情報)
3.遺言者は、下記の車両車を、遺言者の次男Cに遺贈する。
(車の具体的な情報)
特定遺贈の特徴は、全部または一部を放棄することができる、ということです。
例えば、Aが預金1,000万円のうち700万円だけ受け取るとした場合、残った300万円は特定遺贈の対象から外れ、相続人ABCの3人で遺産分割協議(話し合い)をして、300万円について誰が相続するか決めることになります。
そのため、Aが特定遺贈を全部受けるのか、一部だけ受けるのか、それとも放棄するのか。
決断の期限はありませんが、それだとBとCが困ってしまいます。
ですので法律(民法)では、Aに催促することを認めています。
2.包括遺贈とは?
包括遺贈(ほうかついぞう)とは、「全財産の1/2を妻に相続させる」といったように、個別具体的に決めず、財産の割合だけ決める遺言になります。
つぎのようなイメージです。
遺言書の文面は次のようになります。
遺言者は、その所有する財産全部を、遺言者の妻Aに2分の1、遺言者の長男Bに2分の1、遺言者の次男に2分の1を遺贈する。
このような遺言を包括遺贈といいます。
この場合、その割合に従って話し合いをして、誰がどの財産を取得するか、決めなければなりません。
遺言書の目的は、遺産分割で揉めないようにする、ということが挙げられます。
ですが、包括遺贈ですと、話し合い(遺産分割協議)で、誰がどの財産を取得するのか決めることになりますので、仲が悪いと話し合いが上手くいかないかもしれません。
ですので、包括遺贈による遺言は、できるだけ避けるべきです。
特定遺贈か、包括遺贈かが判断できない場合は?
特定遺贈か包括遺贈かで、相続の手続きが変わってきます。
特定遺贈であれば指定された方が財産を受け取るだけです。
これに対し、包括遺贈は、遺産分割協議を開いて、話し合いをしなければなりません。
以前、特定遺贈か包括遺贈か、ベテランの弁護士先生でも判断に迷う遺言がありました。
守秘義務の関係で詳細は省きますが、その遺言書には相続人以外の第三者の名前が書いてありました。
その第三者の受け取る分が、特定遺贈か包括遺贈かで、変わってくるという、極めてまれな遺言書でした。
その遺言書を作られたのは、10年ほど前でした。
遺言書には、
「全財産を換金し・・・(省略)・・・この割合で遺贈する」
とありました。
ですが、その作成当時と、相続開始時とで、財産の内容が変わってしまっていたのです。
具体的には、換金できない財産が出てきてしまっていたんですね。
特定遺贈か包括遺贈かで、第三者の受け取れる財産が違うのです。弁護士先生も相当悩んでおられました。
ですので、このようなトラブルを避けるためにも
- 遺言書は特定遺贈で作成する
- 特定遺贈と明らかに分かるような表現にする
ということに、お気をつけください。
※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。