遺言書とは何ですか?
遺言書とは、どのようなものですか?
また、私は高齢で80歳を超えていますが、知人から「遺言書を作った方が良い」と言われました。
本当に遺言書を作った方が良いのですか?
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
ご家族様の仲がよろしくない、どうしてもご自宅はご長男に相続させたい、といったご事情がある場合は、遺言書を作った方が良い場合があります。
また、両親のうち、まだお一人(例えば、お父上が先に亡くなりお母様が相続人という場合)がいらっしゃる場合は、問題になることが少ないのですが、その次の相続では、相続人がお子様たちだけになることから、そのような場合は遺言書をお作り頂いた方が良いかもしれません。
もし、お作りになる場合は、公正証書遺言をお勧めします。
遺言書は、大きく分けてつぎの3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
実務で良く使うのは、1の自筆証書遺言、2の公正証書遺言ですので、この2つの内容について、ご説明していきましょう。
また、最後に、遺言書の探し方についても、ご説明します。
1.自筆証書遺言
(1)どんな遺言書か?
相続により財産を渡したい方(遺言者)が、「全文を自筆」で書く遺言書のことを言います。
※民法改正により、財産目録等の一部を、パソコンで作成することも認められています。
繰り返しますが、全文を自筆で書く必要があるため、結構大変です。
この遺言書は、手軽に作れるのですが、つぎのような問題があります。
- 偽造できてしまう
- 遺言を発見した方が捨ててしまうかもしれない
以前、京都の方で、「一澤帆布事件」というものがありました。
京都の有名な鞄屋さんの相続で、自筆の遺言書が2通でてきてしまい、それぞれ内容が違う、というものでした。
筆跡鑑定も行われたそうですが、こうなると、どちらが本物か、はっきり言って分かりません。
私も以前、こちらでカバンを買いましたが、大変良い製品なのに、このような争いになり悲しい限りです。
また、この事件とは別ですが、もし、遺言書を最初に発見した方が、(自分に都合が悪いことが書いてあったので)遺言書を捨ててしまった場合、どうなるのでしょうか?
この場合も、はっきり言って、どうしようもありません。
捨てたことをきちんと立証できれば、何とかなるかもしれませんが・・・。
(2)記載例
自筆証書遺言の書式は、特に決まっていませんが、一般的にはつぎのような記載になります。
遺言書
遺言者鈴木太郎は、次のとおり遺言する。
1.つぎの土地及び建物を、長男である鈴木一郎に相続させる。
(1)土地
所在 **県**市**町111番
地目 宅地
地積 150.13㎡
(2)建物
所在 **県**市**町111番地
家屋番号 111番2
種類 居宅
構造 木造瓦葺 2階建
床面積 1階 100.15㎡ 2階 50.35㎡
(省略)
平成**年**月**日
東京都**区**町1丁目2番3号
遺言者 鈴木太郎 印
繰り返しますが、全文を自署で記載します。
押印は実印でなく認め印でも構いません。
また、指印であっても有効との判例(平成元年2月16日判決)がありますので、指印でも有効です。
私の経験上、
「先生、自宅の金庫から、遺言書って書いてある封筒が出てきました!」
ということがありました。
お父上が亡くなり、ご長男が金庫から見つけてきたのですが、そこには
「妻に全財産を相続させる」
とありました。
このケースでは、ご家族仲が良く、遺言書を見つけたご長男様も真面目な方だったので良かったのですが、万が一、ご家族間で上手くいっていない場合は、どうなっていたか分かりません。
自筆遺言ですと、常に改変や廃棄される恐れがありますから、もし遺言書をお考えであれば、つぎにご説明する公正証書遺言をお勧め致します。
2.公正証書遺言
(1)どんな遺言書か?
公証人役場に行って、公証人の前で作る遺言書です。
公証人役場には、その名の通り、公証人がいます。
公証人とは、もと裁判官、もと検事といった、マジメな法律の専門家です。
(ですので、比較的年齢がいかれた方がほとんどです)
そのような、お立場のある方に立ち会ってもらい、きちんとした遺言書を作る。
これが公正証書遺言です。
作るときは、次の方たちが公証人役場に集まる必要があります。
- 公証人
- 遺言者
- 証人2人(自分で見つけられない場合は公証人役場で司法書士等を紹介してくれます)
ここで作った遺言書は、
- 原本は公証人役場に保管される
(保管期限は20年だが、実務的には20年を超えても保管されている) - 正本(原本の写し)、謄本(正本の写し)が遺言者に渡される
ですので、正本や謄本を万が一なくくしたり、捨てられたりしても、原本は公証人役場に保管されているのですから、安心です。
(2)記載例
公正証書遺言を作る際は、一般的には司法書士等の専門家にお願いすることになります。
そして、司法書士が遺言者と打ち合わせ、その文面を公証人にチェックしてもらい、公証人役場に集まる当日は、文面を読み上げて押印するというだけになります。
そのため、実際の文章は司法書士等の専門家が作るのですが、ご参考のため、記載例をのせておきます。
なお、こちらも、自筆証書遺言のときと同じように、唯一絶対の文面があるわけではなく、公証人や司法書士によって、文面は若干異なります。
※実際はタテ書きの書面になります。
平成25年第333号
遺言公正証書
本職は、遺言者鈴木太郎の嘱託により、証人****、証人****の立会いのもとに、遺言者の口述をつぎのとおりに筆記し、この証書を作成する。
(遺言内容は省略)
遺言者住所 東京都**区**町1番2号
遺言者氏名 鈴木太郎
証人住所 東京都**区**町3番3号
証人氏名 ****
証人住所 東京都**区**町4番4号
証人氏名 ****
この証書は、民法第969条第1号ないし第4号所定の方式にしたがって平成25年3月3日本職役場において作成し、同条第5号により本職次に署名押印する。
東京都**区**町5番5号
**法務局所属
公証人 山田一郎
遺言書の探し方について
自筆証書遺言の場合は、遺言者の生前に、きちんと保管場所を聞いておく必要があります。
万が一、作っているはずだが見つからない、といったことがあると、遺言書どおりに相続手続きをすることができませんから、気をつけましょう。
公正証書遺言の場合は、遺言を残されたご本人(遺言者)が、遺言書の正本をお持ちのはずですから、ご自宅の金庫等をさがしてみてください。
万が一、公正証書遺言を作ったはずなのに、正本が見つからない場合は、公証人役場で再発行してもらえます。
また、公正証書遺言を作ったはずだが、どこの公証人役場で作ったか分からない場合は、お近くの公証人役場で「遺言の検索」をしてもらうことができます。
私も、実際に、お客様と一緒に公証人役場に行き、ドキドキしながら、遺言書があるかないか、待ったことがあります(結果的に遺言書はなかったのですが・・・)
遺言書を作るのは簡単ですが、問題は税務面のトラブル(思わぬ税金がかかってしまった!)ということもあります。
作成の途中で税理士に見てもらった方が、そのようなトラブルも防げるかと思います。
※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。