確定申告が必要な人とは?
私(55歳:会社役員)は、今年の1月から、普通の社員から役員に昇格しました。
そして、2つの会社で役員を掛け持ちしております。
常勤の会社での年間給与は1,000万円ほど。
社外役員をしている別の会社では、月に2回ほどの出勤のため、年間給与は200万円ほどになります。
常勤している会社の経理部の方から、
「**さんは、今年になってから、2箇所からお給料をもらうようになりました。ですので、ご自分で確定申告が必要ですよ。」
とのアドバイスを頂きました。
私は今まで、確定申告なるものをしてきたことがありませんでした。
どのような人が確定申告するべきなのでしょうか?
税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
よく、「確定申告する」という言葉が使われます。
これは、言い換えると、
「個人の税金を計算し、税務署に報告書類を提出する」
という意味になります。
日本には1億人以上の人が住んでいますが、実際に確定申告している方は、国税庁の平成26年統計によると、約2千万人だそうです。
どのような方が確定申告が必要か、ご説明していきましょう。
※ 本ページの情報は平成28年時点での税制を基にしています。税制改正等がありますので、詳細な内容は必ず税理士等にご確認ください。
確定申告が必要な方は、つぎにパターンに分類することができます。
- 確定申告をしなければならない人
- 確定申告をすることができる人
ここでは、この2つに分けてご説明していくことにします。
※ 分かりやすく説明するため、レアケースは除き、良くあるパターンのみ使ってご説明していくことにします。
確定申告をしなければならない人
つぎのような方々は、必ず確定申告をしなければなりません。
(1)個人事業・不動産賃貸業をしている方
個人で事業をしている方は、「事業所得」として確定申告する必要があります。
また、不動産賃貸業をしている方は、「不動産所得」として確定申告する必要があります。
これらについては、当たり前のことですので、特にご説明はいらないと思います。
(2)年間のお給料が2,000万円を超えている人
日本には「年末調整(ねんまつちょうせい)」という制度があります。
税務署はこう考えました。
「数千万人にいるサラリーマンの全員に確定申告してもらったら大変だ!さらには、きちんと確定申告しない人もいるだろう。だから、サラリーマンには確定申告してもらわず、その代わりに会社に税金を計算してもらおう!」
外国では、サラリーマンであっても、自分で確定申告するそうです。
(確定申告が義務づけられている国が多いそうです)
ですが、日本では原則として年末調整(会社が代わりに税金を計算してあげる)することになっています。
ですが、年間給与が2,000万円超といった、いわば高給取りの人は、年末調整で税金を精算できないんですね。
(これは、法律で決まっています)
理由は色々あると思います。
高額納税者を補足したい。所得もれ(他社からの給与があるのではないか?)を補足したい等々。
色々な観点から、年間給与が2,000万円を超えている方は、会社で年末調整できないので確定申告が必要になるんですね。
(3)2箇所からお給料をもらっている人
ご質問者様のケースはこれにあたります。
個人の税金は、「その年の1月1日~12月31日の全ての収入を合算」して計算することになっています。
ご質問者様の場合、常勤の会社では年末調整を終えているはずなので、この分の収入についての税金計算は終わっています。
ですが、社外役員をしている会社では、年末調整をすることができません。
(年末調整ができるのはメインの職場だけなんです)
個人の税金は、1年間の全ての収入を合算して計算する必要があります。
ですので、
「常勤の会社の給料+社外役員をしている会社の給料」
この2つを合算しませんと、ご質問者様の本当の年間収入が計算できません。
ですので、2箇所からお給料をもらっている方は、原則として確定申告が必要となるんですね。
(4)副業からの収入がある人
個人の税金である所得税は、その方の年間収入(正確には所得=利益)のすべてを合計して計算します。
ですので、お給料以外に、副業からの収入がある方は、原則として確定申告が必要となります。
よくあるパターンとしては、つぎのとおりです。
- 給与収入+家賃収入
- 給与収入+雑所得(事業所得)
- 給与収入+多額の生命保険金
不動産投資をしている方は家賃収入(不動産所得)が発生しますので、給与所得と不動産所得、この2つを合計して確定申告する必要があります。
また、ネットオークション販売やFX取引等の簡単な副業をしている方は、これらの利益(雑所得または事業所得)と給与所得とを合算して確定申告が必要です。
さらには、高額の満期生命保険金を受け取った場合は、「一時所得」に該当する場合があり、こちらも確定申告が必要となります。
ただし、例外があります。それは、
「年末調整が済んでいる人は、副業等の利益が年20万円以下であれば確定申告が不要」
というものです。
つまり、年末調整が終わっているサラリーマンについては、給料以外の副収入が少ない(=所得が少ない)ようであれば確定申告をしなくて良いことになっています。
ですが、税務署への確定申告(所得税)は不要でも、市役所等への確定申告(住民税)は必要なんです。
この辺りは複雑ですので、突き詰めて考えると大変なんですが、
「給料以外の副収入があったら、原則として確定申告が必要!」
と覚えておきましょう。
(5)身内の会社から給料以外の収入があった場合
例えば、ある会社の社長さんがいらっしゃいます。
この社長さん。ご自分の会社から給料をもらっています。
(もちろん、年末調整をしています)
ですが、それ以外に、ご自分の会社から家賃収入をもらっているんですね。
というのも、ご自分の不動産を会社に貸していらっしゃるからなんです。
このように、身内の会社から何か利益を得ている方は、例え家賃からの利益が少額(年20万円以下)であっても、確定申告が必要になります。
これは家賃だけではなく、貸付金利息も含まれます。
税理士でも、たまにこれを知らない先生がいらっしゃいます。気をつけましょう。
(6)その他のケース
あまりいらっしゃらないと思いますが、つぎのような場合も確定申告が必要となります。
- 退職金をもらった際に高い税金を引かれている方
(退職所得の受給に関する申告書を提出していない方) - 株式売買で利益が発生し、特定口座を選択していない方
- 不動産を売却した方
(居住用財産の特例:3000万円控除等を使うためには確定申告が必要) - その他の収入を合算して一定額以上の税金が発生する方
2.確定申告をすることができる人(還付申告等)
確定申告をする必要はないんですが、確定申告書するとトクをする方がいらっしゃいます。
具体的には、税金が戻ってくるといったケースです。
(1)医療費控除がある場合
収入は給料のみで、年末調整はきちんと終わっている。
そのような方は、原則として確定申告する必要がありません。
ですが、多額の医療費がある方は、「医療費控除」を受けることができます。
この医療費控除を受けるために、確定申告が必要となります。
※ 年末調整で医療費控除を受けることができれば良いのですが・・・。
なお、医療費控除により確定申告する場合は、全ての収入を合算する必要があります。
上記の説明で、「少額の収入(所得)については確定申告不要」とご説明しましたが、それは通用しないのです。
これにより、税金が増えてしまう可能性もあるため、確定申告した方がトクなのか、しない方がトクなのか、きちんと考えてから実行しましょう。
(2)収入を合算すると税金が戻ってくるケース
例えば、つぎのようなケースです。
- 給料+不動産所得(赤字)
- 給料+事業所得(赤字)
不動産事業で赤字が出た方は、その赤字を給料と合算(相殺)できますので、結果的に税金が戻ってきます。
また、同じく事業所得で赤字が出ている方も、給料と合算(相殺)して、税金が戻ってくることになります。
(これを「損益通算」といいます)
ですので、お給料がある方で、他の事業から赤字が出ている方は、確定申告する方が良いと思います。
なお、不動産所得であれば、あまり問題はないのですが、お給料がある方の事業所得については注意が必要です。
というのも、それが本当に「事業」なのか、税務署が問題視してくることがあるからです。
「事業」というからには、それに専念する必要があると税務署は考えます。
ですので、お給料をもらっている方の事業は、原則として「副業」となり、それは事業所得ではなく「雑所得」になる可能性が高いんですね。
雑所得の赤字は、お給料と相殺できません。ご注意くださいね。
(3)事業の赤字を繰り越す場合
不動産事業をしている。個人事業をしている。
青色申告をしていることが前提ですが、これらの所得(不動産所得・事業所得)が赤字となった場合は、その赤字を3年間繰り越すことができます。
ですので、今年発生した100万円の赤字を、翌年の黒字300万にぶつけることができるんです。
(結果的に、翌年の黒字を200万にすることができます)
この「赤字を繰り越す」ために、確定申告が必要となるんですね。
赤字だからといって、確定申告しませんと、結果的にソンをすることになります。
(4)株式売買の赤字を繰り越す場合
上場株式を売買されている方が特定口座を選択していると、勝手に税金が天引きされますので、確定申告は不要となります。
ですが、赤字が発生している方は、確定申告をすると、赤字を翌年以降3年間、繰り越すことができます。
今年の売買赤字を翌年以降の売買黒字にぶつけることができるので、このような方は確定申告をした方がトクになります。
(5)住宅ローン控除がある場合
銀行借り入れをして住宅を購入された方は、一定の条件があるのですが、住宅ローン控除を受けることができます。
この住宅ローン控除の適用初年度(つまり1年目)には、必ず確定申告が必要です。
(翌年以降は年末調整で住宅ローン控除をうけることができます)
(6)自宅の買換損失等がある場合
自宅を売却して赤字が出ている方は、原則として確定申告は必要ありません。
※ 「売却価額<購入価額」の場合でも、建物の減価償却という考え方により、赤字にならない(=黒字になる)場合があります。お気をつけください。
赤字の場合は原則として確定申告が不要なのですが、下記のような方は確定申告すると税金が戻ってくる場合があります。
- 住宅ローンで購入した自宅を買い換えて赤字が出た場合
- 住宅ローンで購入した自宅を売却してローンがまだ残っている場合
細かな条件があるのですが、それらをクリアすれば、この赤字を他の所得(例えば給料等)にぶつける(相殺)ことができます。
そうすると、税金が戻ってくるんですね。
事実、私がお手伝いした事案ですが、ある企業の役員様の場合、500万円くらい税金が戻ってきました(^_^)
このような方の場合は、絶対にやった方がトクと言えます。
どのような方に確定申告が必要か。色々なケースで考えてみました。
皆さん、色々な誤解をお持ちなんです。
確定申告が必要なのに不要と思っている方。またはその逆で、不要なんだけれども必要と思っている方。
インターネットは情報に溢れていますが、それらは全て断片的な情報です。
これらの「点」の集まりを一本の「線」に変えるのが、税理士の役割だと思っています。
確定申告のご依頼を検討されている方は、当税理士事務所(中央区日本橋)にご相談ください。
※本記事に関する無料相談はお受けしておりません。あらかじめご了承ください。