税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
最近、会社の税金が高い、特に消費税が高すぎる、といったご相談を受けましたので、いくつか考えてみたいと思います。
増税の方向性について
会社が負担する税金は、大きく分けて3つになります。それぞれ、増税、減税の方向性がきまっています。
法人税(利益にかかる税金)・・・下がる傾向
法人税は、会社の利益(儲け)にかかる税金です。
会社が儲かれば儲かるほど、利益に対して法人税がかかります。これは、どの社長様もご存じでしょう。
ですが、この法人税は減税(下がる)の方向です。
減税の理由は色々ありますが、一番の理由は「国際競争力」です。
外国に比べて、日本の法人税は高いといわれ続けています。
日本の中小企業が、法人税の安い外国に行ってしまうかもしれません。
それが続きますと、日本から中小企業がいなくなってしまいます。
ですから、法人税の税率は、この先、ますます下がっていきます。
平成28年度には、国分と地方分を合わせた法人税実行税率は、約31%~約32%になる見込みです。
十数年ほど前は40%を超えていましたから、相当下がりました。
ですから、あまり経費を使わず、普通に税金を払った方が、会社にお金が残ります。
消費税(売上と仕入との差額にかかる税金)・・・上がる傾向
消費税は、売上と仕入・経費との差額にかかる税金です。
108円売りあげて8円の消費税を会社で預かり、54円仕入れて4円の消費税を外部に支払います。
そうしますと「8円-4円=4円」で会社は4円の消費税を預かっていることになります。
よって、この4円を消費税として支払うことになります。
理屈のうえでは、会社は消費税を負担せず、最終消費者(つまり商品を購入する末端のお客さん)が、消費税を負担するということになっています。
ですが、実際は、取引先に消費税分の値上げをお願いできないことも多いですし、社長様も会社が負担しているとの実感がおありだと思います。
また、特に注意が必要なのが、(消費税のかかる)仕入や経費の支払いが少ない会社です。
例えば建設業(自社の社員に仕事をさせている場合)は、苦しくなるかもしれません。
というのも、このような建設業は消費税がかかる仕入が少ない(経費のほとんどが給料のため消費税が引けない)、さらには売上先からの入金期間も遅いため、資金繰りの関係上、決算までに消費税を払えないかもしれません。
消費税には延納(税金を分けて払う制度)はありませんし、予定納税(決算前に前払いする)がありますから、よほど注意しないと、消費税を支払えなくて倒産、といったことがおきるかもしれません。
消費税は上がる方向で間違いありません。
平成29年4月1日から、消費税率が8%から10%にアップする予定です。
政府も、リーマンショック級の不景気が来なければ、必ず予定通りに上げる、といっております。
ですから、10%になるのは確実でしょう。
事前に消費税増税もおりこんだ事業計画を考えておきましょう。
社会保険料・・・上がる傾向
社会保険料の内訳は、「健康保険料」、「厚生年金保険料」、「労働保険料」です。
これらも、税金同様、上がる方向で間違いありません。
特に厚生年金保険料は、毎年、必ずといっていいほど上がります。
(改訂時期は10月になります)
これからは利益対策ではなく「消費税+社会保険料」の負担を重視しましょう
法人税に対する節税対策というのは、利益を減らすわけですから、基本的に備品を買ったり、保険に入ったりと、お金が出ていくものが多いです。
法人税の税率はかなり下がりましたので、これからは法人税については、あまり気にしなくても良いのかもしれません。
これに対して、消費税と社会保険料は、基本的に減らすことはできません。
(消費税は一定の条件に当てはまれば、若干、節税できる場合があります。また、社会保険料も、給与規定の見直し等で、若干節約できる場合があります。ですが、基本的には減らすことはできません)
社会保険料は、基本的に毎月お支払いしますので、資金繰りを立てやすいでしょう。
ですが、消費税は決算が終わってから、1年分まとめて払います。
これからの社長様は、これらの負担、特に消費税を含めた資金繰りを、お考え頂く必要があると思います。
消費税を払うための工夫や方法
消費税用の積み立て口座を作る
弊事務所では、顧問先様のご要望があれば、年度の初めに、1年分の決算予測を立てております。
そのときに、「利益がこれくらい出ると消費税がこれくらいかかります」というご報告をしております。
ですが、社長様はお忙しいですから、どうしても消費税のことをお忘れになってしまう方もいらっしゃいます。
そんなときは、「消費税を納めるための預金口座を作られてはいかがですか?」とご提案しております。
すごく簡単な方法で恐縮なのですが、結構、効果があります。
例えば、消費税の年間支払額が500万円だとしたら、毎月末に、40万円を、事業用の口座から消費税用の口座に送るのです。
(積み立て用の口座が定期預金であれば、少しですが利息がつきますね(笑))
これを習慣づけるのです。そうすれば、あらためて決算時に消費税を用意しなくても良くなります。
簡易課税を検討する
売上の変動が多い会社様では、消費税の簡易課税を検討してみるとよいでしょう。
簡易課税とは、「2年前の売上が5,000万円以下であれば、簡単な方法により消費税を計算していいよ」という制度です。
この方法では、売上だけで消費税を計算します(仕入や経費は関係ありません)。
多くの場合で、この制度を使うと、消費税が安くなります(たまに高くなる場合がありますが・・・)。
ポイントは、今年の売上ではなく、2年前の売上で判断する、ということです。
ですから、売上が一瞬でも5,000万円を割った会社様者は、必ず検討しましょう。
なお、簡易課税を使う際は、事前に税務署に届け出が必要です。出し忘れると使えませんのでご注意ください。
課税売上割合に準ずる割合の適用を検討する
消費税がかからない売上と、消費税がかかる売上の両方がある会社様は、「課税売上割合に準ずる割合」を使うことによって、消費税が安くなるかもしれません。
該当するのは、次のような会社様でしょうか。
- 消費税がかかる売上(飲食業)+消費税がかからない売上(介護事業)
このように、消費税がかからない売上がありますと、仕入や経費にかかる消費税の一部が引けずに、消費税を高く支払うことになります。
その場合、税務署に「事業ごとに消費税を分けて計算させてください」というお願いを出すと、消費税が安くなるかもしれません。
このお願いですが、「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」という名前です(舌をかみそうに長いですが・・・)
これを事前に税務署に出して、許可をもらうことにより、消費税を事業ごとに区分して計算することができます。
(税理士でも知らない方が結構いらっしゃいます・・・)
事務負担は増えますので、事前に消費税が安くなるか、シミュレーションをしてから届け出をしてくださいね。
予定納税を仮決算方式で計算する
消費税の予定納税(前払い)は、税務署が計算して、納付書を送ってきてくれます。
これは、昨年に支払った消費税をベースに計算しています。
ですから、売上が極端に下がった場合は、自分で予定納税(前払いする消費税)を計算して、納付した方が、安くなるかもしれません。
この方法を仮決算(かりけっさん)方式といいます。
1年間を通したら、支払う消費税は変わりません。ですが、少しでも余裕ある資金繰りをお考えの社長様は検討してみましょう。
本当に払えないときは事前に税務署に相談に行く
これは最終手段です。
本当に払えなくなった場合は、税務署と相談して、消費税を分割払いにしましょう。
法律で決められている制度ではありませんし、もちろん利息は取られます。
ですが、手形で商売をされている方は、そちらの支払いが最優先です。取引停止を受けますと、最悪倒産してしまうかもしれませんので・・・。
消費税を払えないときは、税理士と一緒に、税務署に行って相談してみてください。
(相談にいっても、消費税は安くはなりませんが、分割払いの相談にのってくれます)。
消費税をずっと支払いませんと、最悪、財産の差し押さえということになります。
ですが、こまめに税務署におもむき、支払い予定を報告しておけば、差し押さえも少しまってくれるかもしれません。
ですから、消費税を支払えない場合は、必ず事前に相談にいきましょう。
これから消費税率が10%になりますと、ますます消費税の負担は増え、会社様を苦しめることになるでしょう。
消費税で損をしないよう、また、きちんとお支払いできるよう、今からきちんと準備をしておきたいものですね。
※本記事に関する無料相談はお受けしておりません。あらかじめご了承ください。