税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
少し前に顧問先様から「たまった書類を廃棄したいんだけど、どれを捨てればいいの?」というご質問を頂きました。
事業をされている方は、日々、領収書や請求書、はたまた税務申告書がどんどん貯まっていきます。これらの書類は、時期を見て廃棄しませんと、会社や自宅の中が書類で一杯、という状況になってしまいます。
今回は、書類の捨て方や捨てる時期、捨ててはいけない書類まで、色々と解説していきたいと思います。
どの書類から捨てれば良いのか?
書類には、法律で保存期間が決まっています。
簡単に一覧表にしてみました。
書類の内容 | 保存期間(税務) | 保存期間(法律) |
領収書・請求書 | 7年(9年) | - |
重要な契約書 | 7年(9年) | 最長20年(※) |
税務申告書 | 7年(9年)(※) | 10年 |
税金の届出書 | 無期限(※) | |
社会保険関係 | - | 最長5年 |
(※)は、特に重要な書類のため、永久に保存することが好ましいです。
領収書・請求書
日々の領収書や請求書は、税金の法律で7年間(9年間)保存することになっています。
なぜ7年間かといいますと、税金の時効が7年間だからなんですね(7年間が過ぎると税務署も税務調査をすることはできません)。
そのため、原則は7年間となりますが、最近、法律改正がありまして、会社の赤字を繰り越せる期間が7年間から9年間に伸びました。ですから、赤字が出ている会社では、赤字期間の領収書・請求書は、9年間保管しておく必要があります。
重要な契約書
重要な契約書とは、大きな商談の契約書や、不動産売買の契約書といった書類です。
これらの書類も、税金の法律では、領収書や請求書と同じく、保存期間は7年間(9年間)になります。ですから、税金の事だけを考えると、7年間(9年間)でOKです。
ところが、民法には「不法行為(ふほうこうい)」という考え方があります。わかりやすく言いますと、「相手へ法律違反により損害を与えてしまった場合は損害賠償をしなければならない」ということです。
この不法行為の時効が20年間なのです。ですから、大きな商談や不動産売買といった重要な契約書については最低20年間保管することにしましょう。もちろん、十数年後に損害賠償をするといったことはほとんどないんでしょうが、念には念を入れて保存しておきましょう。
また、個人で不動産を買われた方は、20年間が過ぎても保存しておくことをお勧めします。といいますのも、捨ててしまうと、売却したときの取得費(買った金額)が分からなくなってしまうからです。そうしますと、税金計算で困ることになります。お気を付けください。
税務申告書
税務申告書の保存期間は、領収書等と同じく7年間(9年間)です。
また、会社法上は計算書類(貸借対照表や損益計算書といった書類)を10年間保存することになっています。
税金の法律、会社法、両方考えますと10年間保存すれば良いことになります。
・・・・・ですが、本当にそれで良いのでしょうか?
確かに、税金の法律や会社法だけを考えますと、税務申告書については、10年間を過ぎれば捨てて良いことになります。ですが、捨ててしまいますと、下記のような事案で税務署から文句を言われたとき困ることになります。
「税務署が言いそうなこと」
- 親から子に贈与したというが、証拠を出してください
(15年前の贈与税の申告書があったら証明できるのに・・・) - 役員退職金が高すぎる。勤続年数が長いから高く出したと言われても、その証拠はありますか?
(大昔からの法人税申告書があれば証明できるのに・・・) - 社長個人の土地を会社に貸した場合、地代の増減によって相続税が変わるんですよ
(昔の法人税申告書があれば地代の推移を示して反論できたのに・・・) - 奥さんの預貯金が多すぎますよ。本当はご主人のお金なんじゃないですか?
(昔の法人税申告書があれば、妻に役員給与が出てたことを証明できるのに・・)
もちろん、税務署にも税務申告書は保存されています。ですが、税務署も収納スペースに限界があるため、10年程度以上経過すると廃棄してしまうといわれているのです・・・。
そうなると、きちんと証明できるのは自分自身だけです。ですから、税務申告書については永久に保存してください。自分の身は自分で守りましょう。
また、会計事務所によっては、「時効が7年間(9年間)なんだから、それが過ぎたら申告書を捨ててしまおう」といって、実際に捨ててしまうところがとても多いのです。
今のことしか考えませんと、そのようは発想になってしまうでしょう。ですが、何十年先の事も考える。税理士にはそのような姿勢が求められるのではないでしょうか。
ですから、決算が終わり、税理士から税務申告書を返却されたら、大切に保管しましょう!
税金の届出書
これも税務申告書と同じく、とても大切です。
税金の手続上、「届出書」という書類を税務署に出すことがあります。特に大切な届出書を挙げますと、つぎのようなものになるでしょうか。
- 所得税や法人税の青色申告届出書
(出さないと赤字を繰り越せなくなってしまう) - 消費税課税事業者選択届出書
(消費税の還付を受けるときに必要) - 消費税簡易課税制度選択届出書
(消費税の計算方法を簡単に、なおかつ安くする) - 源泉所得税の納期の特例
(従業員10人未満の場合の会社の源泉所得税納付を半年に1回にする) - 無償返還届出書
(個人の土地を同族法人に貸した場合の相続税に影響する)
これらの届出書ですが、税金が安くなるもの、税金を少し待ってもらえるもの、といったように色々な種類があります。届出書は税務申告書と違いまして、半永久的に税務署に保存されます。
税務署は他の役所?と違いまして、ある意味、軍隊的な組織ですから、届出書をなくすと言うことはほとんどありません。ですが、万が一ということもあるかもしれません。そのときに損をするのは我々です。
ですから、税務署に届出書を出したら、その控え(税務署の収受印が押されているもの)をきちんと保管しておきましょう。保存期間は特に決まってはおりませんが、大切なものですので、永久に保管してください。
また、万が一無くされても、税務署には半永久的に保管されています。ですから、会社の代表者本人や税理士が税務署に行けば、見せてもらうことができます(コピーはできません)。
以前私も経験したのですが、新しく会社を設立された方が、「税務署に青色申告届出書を出したが紛失してしまった」ということがありました・・・。そのときは、青色申告届出書がきちんと提出されているか、その社長様の代わりに、私が税務署に行って、見せてもらうことになりました・・・・。幸い、近めの税務署でしたので良かったのですが、結構大変でした。
皆様も届出書をなくされないよう、ご注意くださいね。
社会保険関係
社員の入退社といった社会保険手続きの書類については最長でも5年間とされています。ですので、基本的には5年が過ぎたら、廃棄しても良いと思います。
しかし、退職した従業員の年金記録等について、役所から照会があるかもしれません。ですから、従業員の基本情報が分かる労働者名簿や従業員名簿は、半永久的に残しておいた方が良いかもしれませんね。
その他の書類
これ以外に保存しておくべき書類はあります。例えばですが次のようなものが挙げられます。
- 許認可を証明する書類(飲食業許可や建設業許可)
- 会社の定款(会社の事業目的が書いてあるもの)
- 会社登記や不動産登記の書類
書類の保存期間は、法律で決まっているもの、法律では決まっていないが無いと困るもの、とに分けられます。それぞれ判断して、きちんと整理しておくとよいでしょう。
書類はスキャンして捨てましょう!
重要な書類はもちろんですが、あまり重要でない書類も、捨てる前にスキャン(パソコンに読み取って保存しておくこと)しておくと、後々トラブルになったときも安心です。(弊事務所でも、書類スキャンを積極的に活用しています)
スキャンするデータの形式ですが、主に「PDF方式」と「ドキュワークス方式」の2種類があります。それぞれの特徴をご説明しておきます。
スキャンするデータの形式
(1)PDF方式
PDF方式は、世界で一番普及している方式です(お役所がホームページで書類を配布する際も、この方式を採用しています)。そのため、PDF方式は汎用性は一番なのですが、いかんせんデータが重く、ファイルサイズも大きくなってしまうのが難点です。
(2)ドキュワークス方式
ドキュワークス方式とは、ゼロックスが提唱しているファイル保存方式です。利点はファイルサイズが小さく、かつ動作も軽いことです。ですが、スキャンには専用の読み取り機が必要ですし、閲覧用のソフトも必要になります。
税理士事務所で、ドキュワークス方式を採用しているところは多いです(弊事務所でもドキュワークス方式を採用しています)。導入コストはかかりますが、慣れたらこちらの方が作業が早いです。是非お試しください。
どうやって捨てるべきか?
書類を捨てる際は、「シュレッダー」か「書類廃棄サービス」を使うか、の2択になるでしょう。それぞれの特徴は次の通りです。
(1)シュレッダー
お金はあまりかかりませんが、機械で裁断するには時間がかかります。また、安いシュレッダーですと、目が粗いので書類の内容が分かってしまうことがあるので注意が必要です。
(2)書類廃棄サービス
最近は、書類を引き取って溶解(薬で溶かす)してくれるサービスがあります。弊事務所ではヤマト運輸の「機密文書リサイクルサービス」を利用しています。大きめの段ボール1箱で約1,800円前後です。時間と安全を考えれば、決して高くはないと思います。また、溶解が終わりましたら、「溶解証明書」が貰えますので、その意味でも安心できますね。
書類をきちんと整理しないと・・・
「書類を捨てる」。これひとつとっても、その方の仕事に対する考え方や姿勢がわかります。
私自身、書類整理には色々と思い入れがございます。
ある税理士先生が引退され、その先生が担当していた顧問先様を私が引き継ぎました。そして、その先生が保管していた、その会社関係の書類を受け取ったところ、書類はなんと、段ボール5箱分にもなりました。
その会社様は創業してから50年程度たっていましたが、税務申告書だけでは、そんなに大量にはなりません。その先生は、社長様の代理として色々なことをされていたのです。重要な取引のときに社長代理として行ったり、不動産売買の値段交渉をしたりといった風にです。
それらの書類が全く整理されておらず、ただ段ボールに放り込まれていただけ・・・。
結局、私と事務員さんとで、過去数十年分の書類を一緒に整理したり、スキャンしたりしたのです。
お仕事として引き受けたならば、書類をきちんと整理するまでがお仕事です。税務申告書をお返しして終わり、そのようなスタイルでのお仕事では、顧問先様に万が一のことがあったときにお守りできません。
そのようなことにならないよう、税理士から顧問先様に書類整理の方法までご案内する。それが税理士の責任かと思います。
※本記事に関する無料相談はお受けしておりません。あらかじめご了承ください。