税理士 石橋將年(いしばしまさとし)
最近、景気がよくなってきた会社様も多いかもしれません。また、少子高齢化で、人手不足であり、賃金も上昇しています。
業種によっては、外国人を雇うことを検討している会社様もあるでしょう。
今回は、外国人を雇う際のポイントについてご説明していくことにしましょう。
何の知識もなく外国人を雇ってしまった社長様のお話し
数年前のお話です。税理士には守秘義務がありますから、事実関係を若干ぼかしてご説明することにします。
この会社様、飲食業を営んでいます。忙しく、猫の手もかりたいほどでした。
私の方から、その会社様に毎月ご訪問することになっています。ある月に訪問したとき、身長190センチのヨーロッパ白人男性がいたのです。
社長様に「この方は誰ですか?」とお聞きしたところ、「いや~ツイッターで知り合ってバイトとして雇ったんだよ」とおっしゃっていました。
私の方から社長様に「外国人を雇う際に色々とお調べになりましたか?」とお聞きすると、社長様は「何それ?」という状況でした。
この社長様、事業を始められて数年でしたので、外国人の雇用問題にあまりお詳しくなかったのです。
では、何が問題になるのでしょうか?
税理士という仕事から若干外れるかもしれませんが、大切なことですので、きちんとご説明していきたいと思います。
まずは「在留カード」を確認しましょう!
日本に滞在している外国人には、「在留カード」が交付されます(90日以内の観光等では発行されません)。
在留カードは、免許証のような形式になっています。
これには、色々な情報が記載されています。
- 氏名
- 在留資格(これが大切!)
- 在留期間
- 生年月日
- 性別
- 国籍
- 資格外活動許可の有無(これも大切!)
特にご注意頂きたいのが、「2.在留資格」と「7.資格外活動許可の有無」です。
このカード、良くできておりまして、その外国人が日本で働けるかどうかが分かるようになっています。
この画像の例では、「在留資格=留学」となっております。つまり、留学という目的で日本にいるわけです。留学は原則として就労不可となりますので、働くことはできません。
ただし、カード裏面の下をご覧ください。「許可:原則週28時間以内(風俗営業等を除く)」とあります。ですから、1週間に28時間以内で、きちんとした仕事(例:コンビニのバイト等)であれば、働いて学費を稼ぐことができます。
外国人を雇う際は、このカードを必ず確認してください!
ちなみに、先程の社長様の件ですが、私の方も、「すぐにカードを確認してください」、と社長様にお伝えしました。
そうしたところ、「特定活動」となっておりました。つまり特別な活動です。この場合は、別に「指定書」という書類があります。そちらも確認したところ、「ワーキングホリデー」という資格で日本に滞在していることが分かりました。
ワーキングホリデーとは、日本と特別な関係を結んでいる国(カナダやオーストラリア)同士が、その国を良く知るため、1年間限定で働きながらその国を体験してみましょう、ということで特別に設けられている制度です。
ワーキングホリデーは、風俗営業でなければ普通に就業でき、時間制限も原則としてありません。結果オーライでしたので、私もホッと致しました(笑)(ちなみに、その方はワーキングホリデーの期間が過ぎたので退職されています)。
この在留資格、色々とあります。中華料理人は「技能」、学校の先生は「教育」、会社経営者は「投資・経営」といったようにです。街の中華料理店に勤めている中国人料理人は、本国での勤務実績といったような証明書を入国管理局に出して、特別に就労が認められているのです。
万が一、この在留資格を満たしていないで働いた場合は、入国管理法(略して入管法)違反になってしまい、重い罰則が発生します。一番酷なのが、その外国人の方です。強制送還で数年間は日本にくることができません。
会社の社長様は知らなかったでは済みませんので、きちんと勉強してから外国人を採用するようにしてください。
税金や社会保険の問題も残されています
一番影響が大きいのが違法就労(入管法)のからみです。それがクリアになったとしても、税金や社会保険の問題が残されています。
税金の問題とは?
当初から1年以上日本にいる見込みの外国人は、日本人と同じように会社で年末調整をしますので、お給料の税金について問題はおきないでしょう。
1年未満の滞在見込みの方は、お給料から20%(復興特別所得税を入れると20.42%)の源泉所得税を引かれて終わりです。確定申告は必要ありません。
また、当初は1年未満の見込みだったが、途中から1年以上の変更となった場合は、その切り替わったときから日本人と同じように取り扱います。
さらに、本国に戻る前に確定申告が必要な場合もあります。
さらにさらに、租税条約(日本と特定の外国とで決めた特別な税金の法律)があれば、そちらが優先されます。ですから、その外国人の出身国と日本とが、租税条約を結んでいないかも調べる必要があります。
外国人に関する税金は、お給料ひとつとっても、とても難しいものです。
社会保険の問題とは?
まず、健康保険・厚生年金・雇用保険の問題があります。労働時間等の条件が当てはまれば、例え、すぐに帰国するのであっても、加入させなければなりません。
また、数年前より、就労ビザ更新の際に、健康保険料を提示する必要がでてきたそうです。そうなりますと、事実上の強制加入です。
そのほかにも、細かな問題が残されていますので、この辺りは外国人雇用に詳しい社会保険労務士の助けが必要になるでしょう。
外国人を雇うときは良く考えて!
今回の例では、私の方で気づきましたし、結果的に法律違反をしていなかったので、問題にはなりませんでした。
最近は少子高齢化や景気回復によって、アルバイトの賃金単価が上がっています。目先のことを考えれば、賃金単価の安い外国人を雇いたいというお気持ちもあるかもしれません。
ですが、上記でご説明してきたように、外国人を雇う際は色々な問題が発生します。目先の賃金のみに目を奪われてはいけません。万が一、入国管理局、税務署、年金事務所、ハローワーク、労働基準監督署といったお役所から、ペナルティーを受ければ、逆に高くなってしまうかもしれないのです。
この事例では、入国管理法の知識(行政書士のお仕事)、税金の知識(税理士のお仕事)、社会保険の知識(社会保険労務士のお仕事)、といったように、3つの知識が必要になりました。
普通の中小企業様では、3人の専門家を雇う余裕がないかもしれません。そんなときのために、税理士が幅広く勉強し、会社をトラブルから未然に防ぐ必要があると思うのです。
税理士に必要なのは税務の知識だけ。そんな時代は終わりつつあるのかもしれません。
必要なのは顧問先様をお守りするという気持ちと、日々の勉強です。私もさらに研鑽し、会社様をきちんとお守りできるよう、頑張っていきたいと思います。
※本記事に関する無料相談はお受けしておりません。あらかじめご了承ください。