社長様からの借入金が多く残っているときの問題点

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

最近、何人もの社長様から「私が亡くなったら家族は相続税を払えますか?」とのご質問を頂きました。

マスコミ報道で、相続税が増税されたとの情報がしきりに流れております。その影響だと思いますが、社長様のご心配は、もっともでございます。

そこで今回は、中小企業の社長様で特にご注意頂きたい「社長様からの借入金」について、ご説明していきましょう。

社長からの借入金とは?

簡単に言いますと、「会社が社長様から借りたお金」です。

会社の業績が悪くなり、従業員のお給料や、取引先への支払いができなくなったと致しましょう。
その場合、会社は社長様から借りてお支払いになることが多いと思います。

また、景気が良いとき社長様のお給料を上げたが、景気が悪くなっても下げなかった。そのような、払いきれないお給料によって発生してしまった、という場合もあるでしょう。

このような原因で、会社には、社長様からの借入金が発生してしまいます。

この借入金ですが、未払金(みはらいきん・みばらいきん)と呼ぶこともあります。
経理方法(どのような名前をつけるか)の違いで、借入金という名前や、未払金という名前になったりします。

ですが、両方とも同じ性格のものですから、ここでは簡単にご説明するため、「借入金」という名前に統一してご説明していきます。

 

何が問題になるのか?

この借入金、会社側から見れば借金なのですが、社長様側から見ると貸付金(会社に貸しているお金)となり、財産となってしまいます。

この状態で、社長様に万が一の事がありますと、この貸付金は社長様の財産となってしまい、これに相続税がかかってしまうのです。

ですが、社長様から、こんなお声を頂くことがあります。

この借金、返せる見込みがないよ。これが財産になるなんて、おかしいよ!

ですが、税務署は、こう言うでしょう。

「でも、万に一つの確立でも、返ってくる見込みはあるでしょう。会社の業績が奇跡的に回復するかもしれないじゃないですか。

残念ながら、実務では、税務署の言うとおりなのです。

私自身も、返ってくるかも分からない赤字会社への貸付金に、相続税がかかるのは、おかしいと思います。
ですが、税務署と争っても、負ける可能性が高いです。
というのも、同じような理由で争った方が、たくさんいらっしゃいますが、ほとんどの場合、裁判で負けているからなんですね・・・。

ですから、社長様からの借入金が多い会社(=会社へ多額のお金を貸している社長様)は、会社の決算が終わるごとに、見直しをおすすめしております。

 

どこを見れば社長からの借入金の金額が分かりますか?

経理や税務申告について、全て税理士にお任せ、という社長様も多いと思います。
そのような方は、ご自身がいくら会社に貸しているが、ご存じないことも多いでしょう。

そこで、どこを見れば、社長様からの借入金が分かるか、ご説明させて頂きます。

まずは、会社の申告書(一番新しい申告書)を見てください。

その申告書の後ろの方に「勘定科目の内訳書」があります。
(使っているソフトによって、若干、呼び方が違う場合があります)

そして、下記の書類をご覧になってください。

  • 借入金及び支払利子の内訳書
  • 買掛金(未払金・未払費用)の内訳書

借入金及び支払利子の内訳書」には、会社が、「どこから」「いくら」借りているか、一覧になっています。
ここに、社長様からの借入金が多額になっていないか、チェックしましょう。

また、「買掛金(未払金・未払費用)の内訳書」もチェックが必要でしょう。
上記でご説明したとおり、会社や税理士によっては、借入金ではなく、未払金という経理処理(名前の付け方)をする場合があります。その場合は、社長様への未払金が多額になっていないかをチェックしましょう。

 

社長様からの借入金を減らすためには?

社長様からの借入金が多く残っている場合は、社長様側から見れば財産になってしまい、相続税がかかってしまいます。
(これは、先程もご説明しました)

では、この社長様からの借入金、どのように減らせばよいのでしょうか?
いくつか方法がありますので、順番にご説明しましょう。

債務免除をする

これは、社長様が会社に「借金を免除してあげるよ」といって、借金を棒引きにしてあげる方法です。

具体的には、社長様が会社宛にお手紙を出します。
文面は「社長鈴木一郎は、**株式会社に対する貸付金**円を本日付で免除する」といった内容になります。

大切なのは、内容証明郵便で出すと言うことです。社長様個人が会社にお手紙を出すというのは、いわば内部取引です。後付けでいくらでもお手紙を作れてしまいます。

ですが、内容証明郵便は、日付が記録され、かつ、同じ内容のお手紙が郵便局にも保存されますので、万が一、税務署から指摘されたときも安心です。

また、債務免除は、このように比較的簡単にすることができますが、実行する際は、次の点に気をつけてください。

会社の赤字の範囲内で債務免除をする

債務免除をすると、会社はトクをします(借金を返さなくてよくなりますから)。

この、トクした分は会社の利益となり、会社に税金がかかってしまいます。

ですが、このような会社には赤字があるでしょうから、その赤字の範囲内で債務免除をすることが大切です。

この赤字(税金上は欠損金とよびます)はいくらあるのかですが、これも申告書を見ることでわかります。

一番新しい申告書の「別表7(1)」という書類をみてください。
ここに、事業年度ごとの赤字がのっています。
赤字は繰り越せる期間がきまっていて、原則として9年間(時期によっては7年や10年の場合もあります)となります。

この期間を過ぎてしまうと、赤字が使えなくなってしまいますから、この別表7(1)を確認しつつ、いくら債務免除をするか決めましょう。

「みなし贈与に気をつける」

みなし贈与」という聞き慣れない言葉がでてきました。

以下の例でご説明しましょう。

 ・会社の株主・・・社長様90株 ご長男10株

この状態で、社長様から会社あてに債務免除をするとしましょう。

会社は社長様個人から債務免除をしてもらいますと、借金がなくなるわけですから、経済状態が良くなります。

そうなりますと、会社の株式の価値(ここでは「株価」ということにします)が上がるかもしれません。

そうしますと、税務署は、
「長男は何もしていないのに、長男が持っている株式10株の株価は上がった。これは、社長が会社に債務免除をしたことによりおきたので、いわば社長から長男への利益供与だ。」と考えるのです。

つまり、債務免除をすることにより、社長様からご長男様へ利益供与がされたと考えて、贈与税がかかる可能性があるのです。

債務免除で株価が上がらなければ問題ありません。ですが、万が一、上がってしまった場合は、ご長男様が贈与税を払わなければいけないかもしれません。

そのため、債務免除をする際は、必ず税理士に相談してから行うようにしてください。

貸付金を身内に贈与してしまう

債務免除ができれば良いのですが、赤字が残っていませんと、会社に税金がかかってしまいます。

そのようなときは、社長様からお子様へ、貸付金を贈与することも検討しましょう。
こうすることにより、社長様が持っている会社への貸付金を減らすことができます。

ですが、実行前にこれだけはご注意ください。それは、きちんとした手順を踏む、ということです。

普通の会社でも、貸付金や売掛金といったもの(債権といいます)は、他の第三者に譲り渡すことができます。ですが、これには手順が必要です。

具体的には、お金を貸している人から借りている人宛てに、「貸付金を**様に譲り渡したからお知らせします」というお手紙を出す必要があるのです。
(民法でこのように決められています)

また、このお手紙は債務免除のときと同じように、内容証明郵便で出す必要があります。

この方法、一見すると良いかもしれませんが、一度に多くの貸付金は移動できません。
というのも、一度に多額に移してしまいますと、もらった方に多額の贈与税がかかってしまうからです。

そのため、贈与税がかからない範囲(110万円まで)も考えて、贈与する必要があるでしょう。

会社を清算してしまう

社長様からの借入金が多額にあって返せる見込みがない、会社も営業成績が振るわない・・・。

そのような場合は、思い切って会社を清算してしまうことも、ご検討ください。

会社を清算すると、借金を免除してもらいますから、会社はトクをします。
そうしますと、上記でご説明したように、会社に債務免除益という利益が発生して、会社に税金がかかってしまいます。

ですが、このような利益に対しては会社を清算するときには税金をかけな、という特例があるのです。

会社を清算するには、若干の費用(司法書士への登記費用、税理士への申告費用)がかかります。

ですが、債務免除をしたいが赤字が残っていない、という会社様は、思い切って会社を清算してしまうことも検討しましょう。

また、会社を清算しても、個人事業という形で事業を続けることは可能です。会社から個人事業に切り換えた場合は、次のようなメリットがあります。

  • 社会保険へ加入しなくても良くなる
  • 消費税の免税事業者になれる
  • 事務負担の軽減等

「社会保険への加入義務がなくなる」

会社であれば社会保険に加入しなければなりません。
ですが、個人事業であれば、従業員5人未満の場合、社会保険に加入しなくても良いのです。
社会保険料の負担はかなりのものです。これは大きなメリットといえるでしょう。

「消費税の免税事業者になれる」

会社の事業を、個人事業で新たに始めた場合は、消費税が免除されるかもしれません。
消費税は、原則として2年前の売上が1,000万円を超えた場合に払う必要がでてきます。
しかし、会社を清算して個人事業に切り換えた場合は、個人事業を新たに始めたとされますので、当然、2年前の売上は0円になるでしょう。
ですから、上手くいけば、丸々2年間は消費税を払わなくても良いかもしれません。

「事務負担の軽減」

会社ですと、きちんとした会計帳簿が必要になりますし、役員登記も必要になります。
ですが、個人ですと、それらの負担も少なくなります。
また、あまり大きな声では言えませんが、一般的には、会社よりも個人の方が税務調査を受ける確率は減ると思います(税務署が出している統計にもそのように表れています)。

このように、会社清算にもメリットがありますので、ご検討頂ければと思います。

 

決算が終わる都度、社長様からの借入金について確認しましょう!

色々なご事情がおありになり、他の会計事務所様から弊事務所に顧問をご変更されるお客様がいらっしゃいます。

そのときは、まず始めに、過去の申告書をお預かりさせて頂きまして、内容をチェックさせて頂きます。
そのなかで、「社長様からの借入金が多くある」会社様がとても多いのです。

このままですと、多額の相続税がかかってしまいますから、こちらとしては債務免除といった方法を検討します。
そのことを社長様にお伝えしますと、多くの場合は、

「前の税理士先生からは、そのようなご説明を受けたことがない」とおっしゃいます。
(もちろん、前の税理士先生がご指摘になったのに、社長様がお忘れになっただけかもしれませんが・・・)

また、そのような会社様の場合、赤字を使える期間が過ぎてしまい、債務免除ができない場合も多くありました。

ですから、そのようなことにならないよう、赤字が続いている会社の社長様は、決算が終わるつど、税理士先生に次のことをご相談された方がよいかと思います。

  • 社長からの借入金が今の金額だと、相続税はいくら位になりますか?
  • 債務免除をした方がよいですか?
  • 債務免除ができますか?
  • 会社を清算して個人事業にすることはできますか?

返ってくる見込みがなくても財産になってしまう。

考えてみれば変な制度なのですが、法律で決まっていますから、仕方ありません。

余計な税金を払わなくてすむよう、色々なところに配慮したいものですね。

※本記事についてのご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。